曙ブレーキが200億円調達へ、優先株式について

はじめに

 経営再建中の曙ブレーキ工業は事業再生ファンドであるジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)を対象に優先株を発行する予定であることがわかりました。それにより200億円を調達し財政建て直しや構造改革にあてるとのことです。今回は種類株式の一種である優先株について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、曙ブレーキは今年1月末に私的整理の一種である事業再生ADRを申請し経営債権を図っており、3月末における有利子負債は1137億円、自己資本比率は1.7%にまで悪化しているとされます。同社では9月上旬に債権者会議を開き取引先金融機関の債権放棄や再建計画案を協議する予定となっております。また9月下旬に臨時株主総会を招集しJISを対象に議決権の無い優先株を発行し、200億円の調達を予定しているとのことです。それにより国内外の工場の再編や製品開発費に当てる見通しとなります。

優先株とは

 優先株式とは種類株式の一種で、剰余金や残余財産分配に関して他の株式よりも優先して配当が受けられる株式を言います(会社法108条1項1号2号)。逆にそれらの配当に関して他の株式よりも劣後する取扱いをうける株式を劣後株と言います。通常は配当で優先される代わりに議決権が制限されていたり、他の株式への。経営には関心が無く、経済的利益のみを得たい投資家にとっては普通株よりも魅力的であり、また会社にとっても経営に関与してくる株主を増やすことなく資金調達ができるといったメリットがあります。

優先株の種類

(1)参加型と非参加型
 優先株は配当において普通株よりも優先しますがその方式は参加型と非参加型に分かれます。参加型とは予め定められた優先分配を受けたあとさらに残余の剰余金について他の普通株と同様に分配を受けるというものです。非参加型は予め定められた優先分配分を受けたあととは残余の剰余金については分配を受けられないというものです。前者は完全に優先株のほうが普通株よりも有利ですが、後者は場合によっては普通株よりも劣後してしまうことも有りえます。

(2)累積型と非累積型
 その年度の剰余金の不足により予定されていた優先配当が受けられなかった場合、次年度に不足分が繰り越されるものを累積型、繰り越されないものを非累積型といいます。累積型は優先分に足りるまで繰り越されていくことから会社としてはコスト負担が多きい種類の優先株と言えます。

優先株の発行手続き

 優先株は種類株式の一種であることから優先株発行には必ず定款変更が必要となってきます(466条)。種類株式の内容を定款に定め、発行可能種類株式総数とともに登記することになります。また既に発行している普通株式を優先株に転換することもできます。その場合にはまずその優先株の内容を同じように株主総会の特別決議で定款変更を行い(309条2項11号)、その内容の種類株式に転換する旨の合意を各株主と行います。なお既に種類株式を発行している会社は、ある種類の株主に損害が生じるおそれがある場合にはその種類株主総会の特別決議が必要になってきます(322条1項1号イ、ロ)。

コメント

 本件で曙ブレーキは議決権の無い優先株の発行を予定しているとされます。このような優先株は投資家にとって利益回収率が高くまた会社にとっても経営権比率に影響を及ぼさないことから今後の運営がスムーズに進みやすいというメリットがあります。しかし逆にこの優先株が累積型であった場合など会社にとってコスト負担が大きくなるリスクもあります。また投資家側にとっても優先株は剰余金といったインカムゲインの面で有利でも、優先株は市場で流通しにくいことから売却して資金を回収しにくいといったデメリットを負うことも有りえます。以上のように優先株は会社、投資家両方にとってかなり緻密なメリット・デメリットがあり会社の資金調達の要請と投資家側の利益増大の要請を慎重に調整していく必要があります。優先株発行の際には優先枠の大きさや参加型・非参加型、累積型、非累積型など自社に合った内容を慎重に模索していくことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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