丸紅子会社が独禁法違反の疑い、不当な取引制限について

はじめに

 丸紅は16日、子会社であるアルテリア・ネットワークスで独禁法違反の疑い発生している旨発表しました。アルテリアの川上社長は同日付で辞任したとのことです。今回は独禁法上の不当な取引制限について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、マンション向けインターネットサービス等を手がける「アルテリア・ネットワークス」(アルテリア)とその子会社である「つなぐネットコミュニケーションズ」(TNC)は競合他社と相互に相手方の顧客に対して積極的な営業活動を行わないこと、競合他社と一部競争行為を控えることなどを取り決めていたとされます。両社が競合他社との間で情報交換等を行っていた旨の内部申告がありアルテリアが外部弁護士による調査を行って独禁法違反の疑いが発覚したとのことです。アルテリアでは今後第三者委員会を設置し全容解明を行っていくとしています。

独禁法による規制

 独禁法では事業者が「他の事業者と共同して」「相互にその事業活動を拘束し」「公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限」する行為を不当な取引制限として禁止しております(3条、2条6項)。具体的な要件は「意思の連絡」と「相互拘束」です。カルテルや入札談合が典型例と言えます。競争事業者同士が話し合って競争をやめる旨の取り決めを行うといった場合だけでなく、相互に他の事業者の価格の引き上げなどを認識して暗黙のうちに認容するだけで足りるとされております(東京高裁平成7年9月25日)。違反した場合には排除措置命令(7条)、課徴金納付命令の対象となります(7条の2)。

不当な取引制限の例

 不当な取引制限に当たる具体例としては、競争事業者間で価格を下げない、もしくは値上げするといった取り決めや市場における供給量を減らすといった取り決めを行う、いわゆるカルテルが典型例と言えます。このカルテルには事業者間で互いに顧客を奪い合わなずにそれぞれが販売地域などを分け合う市場分割型のカルテルも存在します。そしてもう一つの典型例が自治体などの公共事業でしばしば行われてきた入札談合です。事業者間で話し合い、どの事業者が落札するかを予め決めていくという取決め(基本合意)を行い、それに基づいて実際に落札者を決める(個別調整行為)といったものです。さらに事業者間でこれ以上設備投資は行わないといった取決めを行うというものも挙げられます。

公取委による立証

 上記のように不当な取引制限の重要な要件は意思の連絡です。これはどのように立証されるのでしょうか。一般的に意思の連絡の立証は①事前の連絡・交渉、②交渉内容、③行動の一致という事実を間接証拠として立証していくと言われております。競争事業者間で会合を行っていた場合や電話、メール、FAXでやり取りをしていたといったことは重要な立証対象となります(審決昭和43年5月10日、審決昭和40年2月25日等)。そして同時期にこれら事業者が価格を引き上げたなどの行動の一致があればそれも意思の連絡があったことを推認する材料となり得るということです。逆に事業者側はコストの上昇など市場における状況の変化から偶然に値上げが一致しただけと反論することも有りえます。

コメント

 本件で丸紅が発表したアルテリアとTNCが行っていたとされる行為は、競争事業者と相互に顧客の奪い合いを行わないといった取決めです。これが事実であった場合は一種の市場分割型カルテルに該当し不当な取引制限に当たる可能性があると言えます。以上のように不当な取引制限は他の競合他社と価格や数量、顧客や販売地域などで競争しないと明示的または黙示的に確認しあってそれを守るといった行為を言います。その出発点となるのが互いの意見交換といった会合などです。一般的に同業者同士で意見交換するといったことは多々行われておりますが、そこから協調的な動きになれば独禁法違反の近づいていくこととなります。自社では他社とそういった接触は行われていないか、販売地域や数量などで互いに話し合いなどを行っていないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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