アドバネクス前会長が提訴、株主総会決議の瑕疵について

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はじめに

 日経新聞電子版は先月31日、精密ばね大手「アドバネクス」の前会長が株主総会決議不存在確認を求め東京地裁に提訴していた旨報じました。前会長は6月の総会で解任されていたとのことです。今回は株主総会決議の瑕疵について見ていきます。

事案の概要

 日経新聞の報道によりますと、原告側の説明では今年6月に開催された株主総会で、原告の前会長加藤氏を含む7人の取締役選任議案が出された際に株主の男性一人が加藤氏を含む4人を削除する動議を提出したとされます。また同男性は自ら持ち込んだ投票用紙で採決することを提案し議長が受け入れ、投票が行われた後一旦総会が中断されとのことです。本社で再開された直後、同男性が代表と務める会社の従業員とされる人物に議長を交代した後、得票数も報告されずに修正動議が可決されたとしています。これにより解任された前会長加藤氏は株主総会決議不存在確認を求め提訴しています。

株主総会決議の瑕疵

 株主総会は会社の実質的所有者である株主によって構成される最高意思決定機関です。そこでは役員の選任解任、定款変更、組織再編の承認等、あらゆる重要事項の決定が行われます。その決議に瑕疵が存在する場合は、決議の効力について争うために一定の手続が用意されております。最も利用されているのが株主総会決議取消の訴えです。それ以外にも株主総会決議不存在確認の訴え、決議無効確認の訴えも用意されております。

総会決議取消の訴え

 株主総会に瑕疵があった際に利用されるメインの手続が決議取消の訴えです(会社法831条)。対象となる瑕疵は①招集手続き、決議方法に法令・定款違反がある場合、または著しく不公正な場合、②決議内容が定款に違反する場合、③特別利害関係人が決議に参加し、著しく不当な決議がなされたときとなっております(同1項1号2号3号)。提訴期間は決議の日から3ヶ月で、提訴ができるのは株主、取締役、監査役、清算人となり、会社が被告となります。決議によって株主でなくなった者も、取消すことによって地位が回復できる場合は原告となることができます。

総会決議不存在・無効確認の訴え

 総会決議の内容が定款に違反する場合は上記取消の訴えの対象でしたが、決議内容が法令に違反する場合は無効確認の対象となります(830条2項)。たとえば分配可能額が無いにもかかわらず配当決議をした場合などです。そして決議不存在確認の訴えとは、総会決議がそもそも開催されなかったのに登記だけされている場合や手続の瑕疵が著しく総会決議が不存在と言えるような場合です(同1項)。これらの訴えには提訴期間はなく、また訴えの利益がある限りだれでも提起することができます。

コメント

 本件で原告側の主張によりますと、株主の一人が総会議長の不信任動議を提出し、同人の会社の従業員を議長に替えて議事進行を行っております。同社定款では総会議長は代表取締役か取締役とされており手続の定款違反となります。また投票の集計もされずに結果だけ発表されたりと総会運営の手続上の瑕疵が著しく、取消の訴えではなく不存在確認を求めたとしています。実際に総会が開催された事例で不存在確認訴訟が提起されるのは異例と言えます。総会が開催されず選任登記だけがなされた場合は不存在確認訴訟を提起し、勝訴すれば裁判所書記官から登記所に登記嘱託がされます。以上のように株主総会の運営に問題がある場合は各種訴えが用意されており、解任された取締役等も訴えを提起できます。株主総会の際には手続や内容に法令・定款違反が生じないよう留意することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] mhayashi

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2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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