労災発生場所の偽装で産廃処理業者を書類送検 ー千葉労基署
2025/11/13 労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 労働法全般

はじめに
千葉労働基準監督署が10日、産業廃棄物処理業「センエー」(千葉市)と同社副部長の男性を書類送検していたことがわかりました。虚偽の労災報告を行っていたとのことです。
今回は労災隠しについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年5月29日、サンエーの40代の男性従業員が成田市内の工事現場で高圧ホースを使って洗浄作業中、転倒して体を強く負傷したとされます。
これにより男性作業員は4日以上の休業を必要とし、労働基準監督署に報告しなければならなかったにもかかわらず、同社は「千葉市内に所在する自社営業所で労働災害が発生した」とする虚偽の報告を行ったとのことです。
これに対し、千葉労働基準監督署は労働安全衛生法違反の疑いで同社と同社副部長の男性を書類送検しました。容疑の認否については明らかにしていないとされています。
労災隠しとは
労災隠しとは、労働災害が発生したにもかかわらず労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の内容の報告をすることとされています。
労働安全衛生法100条、労働安全衛生規則97条によりますと、事業者は労災が発生した場合、所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出する義務があるとされます。
具体的には、(1)労働者が労災によって負傷、窒息、急性中毒により死亡または休業したとき、(2)労働者が就業中に負傷、窒息、急性中毒によって死亡または休業したとき、(3)労働者が事業場内またはその附属建物内で負傷、窒息、急性中毒により死亡または休業したとき、(4)労働者が事業の付属寄宿舎内で負傷、窒息、急性中毒により死亡または休業したときとされています。
違反した場合には50万円以下の罰金となります。
労働者死傷病報告の提出
上記のように、労働者に労災が発生した場合、事業者は一定の期間内に労働者死傷病報告の提出が義務付けられています。報告期限は労働者の休業日数によって異なります。
労働者が業務上の災害により死亡した場合、または休業4日以上である場合は、災害発生後遅滞なく提出する必要があります。一方、休業が1日以上4日未満である場合は、四半期ごとの報告で良いとされています。
1月~3月に発生した分は4月末日まで、4月~6月に発生した分は7月末日まで、7月~9月に発生した分は10月末まで、10月~12月に発生した分は翌年1月末日までとなっています。
休業4日以上か否かで提出期限は異なっており、また使用する様式も異なります。なお、令和7年1月1日から労働者死傷病報告は電子申請によることが義務化されています。
労災隠しの態様と理由
労災隠しは、労災発生時に労働者死傷病報告を提出しないか、虚偽の内容の報告を提出する場合を指します。これには意図せず報告を失念していた場合もあれば、意図的に労災を隠したという場合もあるといえます。
一般的に労災隠しの理由としては、労災保険料の増額を避けるため、今後の受注への影響を恐れて、会社の評判の悪化を恐れて、元請け業者に迷惑がかかることを恐れて、従業員同士の喧嘩が原因の場合は報告する必要がなかったと思っていた、派遣先にも報告義務があることを知らなかった、など様々なものが挙げられます。
これら以外でしばしば見られるのは、発生場所に労基署の調査が入った場合、労災以外に法令違反が発覚してしまうことを恐れてという理由です。
実際にあった例としては、建築現場で労働安全衛生法上の安全対策が施されておらず、それによって労働者が死亡し、その事実の発覚を恐れて適法に安全対策が施されている場所で発生したと虚偽の内容を報告したというものがあります。
コメント
本件でサンエーは、成田市内の工事現場で発生した自社従業員の労災に際し、千葉市内の自社営業所で労災が発生したと虚偽の内容の報告をした疑いがもたれています。これが事実であった場合は、「労災隠し」に当たり労働安全衛生法違反となります。
詳細は不明ですが、労災が発生した場所を偽る場合、実際に発生した現場に労基署などに見られたくないものがあるケースが多いといわれています。
以上のように、従業員に労災が発生した場合は、その休業日数に応じて労基署に報告を提出することが求められています。労災隠しをしても、従業員が健康保険を使用して医療機関を利用したり、従業員自身が労基署に相談するなどして発覚することが多いといいます。
労災が発生した際には、必要な手続きなどを確認し、迅速に正しい報告等を進めていくことが重要といえるでしょう。
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