日野自動車と三菱ふそうが経営統合、株式交換とは
2025/10/30 商事法務, 総会対応, 会社法, 自動車

はじめに
日野自動車は20日、三菱ふそうトラック・バスとの経営統合に関する契約を締結したと発表しました。新たな持株会社の社名は「アーチオン」とのことです。今回は組織再編のスキームの1つである株式交換について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、日野自動車とその親会社であるトヨタ、三菱ふそうとその親会社であるダイムラートラックの4社は2026年4月1日を統合予定日として両社の経営統合について協議を重ねてきたといいます。
統合の内容としては、日野自動車と三菱ふそうとの対等な立場での統合と商用車の開発、調達、生産分野での協力、トヨタとダイムラートラックが統合会社の株式をそれぞれ25%ずつ保有する、統合会社が日野自動車と三菱ふそうの株式を100%保有するというものとされています。
両社は20日付で株式交換契約を締結し、11月28日の臨時株主総会で承認を得る予定です。
なお、統合後に親会社となる新会社「アーチオン」は今年6月2日付で設立済みとのことです。
株式交換とは
近年M&Aの手法として多く利用されているのが株式交換です。株式交換とは、株式会社が発行済の株式を全て他の親会社となる会社に取得させる組織再編行為の一種です。これにより完全親子会社関係が発生します。
原則として株式交換が行われると、子会社側の株式は全て親会社に取得され、その代わりに子会社側の株主には親会社の株式が交付されることとなります。そのため、十分な資金が無くとも簡易かつ迅速に組織再編が可能となります。
この制度は平成11年の商法改正の際に導入されました。当初は子会社側の株主に交付する対価は親会社側の株式に限定されていましたが、平成17に制定された会社法で対価が拡張され、株式の他に現金、社債、新株予約権、他の会社の株式なども認められています。以下、具体的に手続きを見ていきます。
株式交換の手続き
株式交換の手続きとしては、(1)当事会社同士での基本合意と株式交換契約の締結、(2)株式交換契約の締結、(3)適時開示と事前開示、(4)株主総会での承認、(5)効力発生と登記、(6)事後開示となります。
まず、両当事会社間で経営統合に向けた話し合いを行い株式交換を行う方向で決定したら契約を締結します。これは取締役会決議が必要です。その後、上場会社など必要な場合は適時開示を行い、一定の規模の会社の場合は独禁法上の届出を行います。
株式交換だけでなく組織再編行為の場合は原則として両当事会社で事前開示が必要です。これは株式交換契約書や決算報告などを本店に備え置くといったものです。
株主総会では特別決議によって承認を得る必要があります。特別決議とは議決権の過半数が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成による決議ということです。例外的に相手会社が特別支配株主である場合は決議を要しません。また、完全親会社側の交付する対価が純資産額の5分の1以下である場合も要しません。
株式交換の効力は契約で定めた効力発生日に発生することとなります。株式交換は株主が変わるだけなので基本的には登記は不要です。ただし、対価として株式を発行したり新株予約権に変動がある場合は登記が必要となります。
最後に効力発生日から6ヶ月間、事後開示書類を本店に備え置きます。これは手続きの結果などを記載します。
株式移転・株式交付とは
株式交換と似た制度で株式移転と株式交付というものがあります。まず、株式移転も株式交換と同様に完全親子会社関係を創設するための制度です。株式交換は既存の会社を完全親会社とするのに対し、株式移転は新たに設立した会社が完全親会社となる点が大きく異なります。ホールディングス設立などで利用されます。
そして、株式交付とは親子会社関係を作るために利用される制度です。株式交換・株式移転と異なり完全親子会社化は目的としていないということです。そのため、手続き的にも子会社となる会社は当事会社ですらなく、その株主から株式を譲り受けるというものです。一方で親会社側では株式交付計画の作成、株主総会の承認、子会社の株主への通知・公告、売り渡しと事後開示となっています。
コメント
本件で日野自動車は三菱ふそうと経営統合をする方針を固め、来月28日に開催予定の臨時株主総会で承認を得た上で、来年4月1日を効力発生日としているとされています。
これにより開発・生産など事業効率を高め、日本の商用車メーカーとしての競争力を磨き、日本・アジアの自動車産業の基盤を守る目的があるといいます。
以上のように、本件では両社の株式を1つの持ち株会社に株式交換という形で移転させるというスキームを採用しています。
近年、会社法制ではM&Aや組織再編に関して様々な主要が用意されています。それぞれに必要な手続きやメリット・デメリットが存在しています。どのような制度があるのか、またどのようなコストや負担があるのかを随時確認して把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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