東京地裁が「ちゃん付け」で認定、セクハラについて
2025/10/27 労務法務, コンプライアンス, ハラスメント対応法務, 労働法全般, 流通

はじめに
名前を「ちゃん付け」で呼ばれるなどして精神的苦痛を受けたとして、佐川急便に勤めていた女性が元同僚の男性に賠償を求めていた訴訟で東京地裁が22万円の支払いを命じていたことがわかりました。ちゃん付けはセクハラに当たるとのことです。
事案の概要
報道などによりますと、原告の女性が東京都内の営業所に勤務していた2020年以降、同僚の男性から名前を“ちゃん付け”で呼ばれた他、「かわいい」「体形良いよね」などと言われていたとされます。
女性は2021年にうつ病と診断され、その後退職していたとのことです。会社は男性に厳重注意処分を課しましたが、女性は2023年、男性と佐川急便の双方に対し、損害賠償を求め提訴しました。
なお、女性と佐川急便間の訴訟については、今年2月に「解決金70万円を支払う」などの内容で和解しているとのことです。
セクハラとは
セクハラとは、他の者を不快にさせる職場における性的な言動をいいます。「性的な言動」とは、(1)性的な関心や欲求に基づくものを言い、(2)性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、(3)性的指向や性自認に関する偏見も含まれるとされています。
セクハラは男性から女性に対して行われるものに限らず、女性から女性、女性から男性、男性から男性に対して行われる場合も含まれると言われています。
そして不快であるか否かは、原則として受け手が不快に感じるかどうかによって判断されます。その際、受け手の感じ方が不明であっても、通常人が不快に感じるか否かで判断されるとされています。
セクハラと法律の規制
それではセクハラは法的にどのように位置づけられているのでしょうか。まず、セクハラを受けた者はセクハラをした者に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能です(民法709条)。また、会社に対しても債務不履行責任を追求することができるとされます(415条1項)。これは雇用契約に付随する職場環境配慮義務に違反するからです。
また、会社に対しては使用者責任の追求についても可能性があると言えます(715条1項)。
セクハラはそれだけで直ちに犯罪に該当するというわけではありませんが、悪質な場合は強制わいせつ罪(刑法176条)や強制性交等罪(177条)などの性犯罪に該当する場合も有り得ると言えます。
これら以外でも、男女雇用機会均等法11条1項では、事業主に対して職場でセクハラによって就業環境が害されないよう、また相談に応じたり適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じるよう義務付けています。
セクハラに関する裁判例
実際にセクハラと認められた例として、男性従業員2人が1年以上にわたり同僚の女性従業員に極めて露骨で卑猥な言動や侮辱的ないし下品な言辞等を繰り返していたというものがあります。裁判所は女性従業員に対し強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、執務環境を著しく害するものとしています(最判平成27年6月8日)。
また、同僚に執拗に交際をせまられ、自宅にまで押しかけられた者が会社に相談を持ちかけたが何らの措置を取られず退職し、その親会社に事実確認を求めたものの会社から事実なしとの報告を受け、事実確認を行わなかったという事例があります。
裁判所は、会社は雇用契約上の付随義務を負い、それに基づく対応を怠ったことのみをもって親会社に信義則上の義務違反があったとは言えないとしつつ、グループ会社の事業場での被害として相談窓口に申し出があった場合は、状況によっては信義則上の義務を負うとしました(最判平成30年2月15日)。
コメント
本件で東京地裁は、「ちゃん付け」は幼い子供に用いられるもので、成人に対して使うのは交際相手など親密な関係にある場合が多いとし、業務上で用いる必要性は見いだし難く、不快感を与えるものだとしてセクハラに該当すると認めました。
また、体形などについての発言に対しても、羞恥心を与える不適切な行為で許される限度を超えた違法なハラスメントとし、22万円の賠償を命じました。
以上のように、セクハラとは職場における他人を不快にさせる性的言動を言います。スリーサイズを聞いたり、卑猥な冗談を言ったり、性的経験や性生活について質問をするといった場合が典型例と言えますが、本件のように不快感を与えるものであれば、ちゃん付けも該当し得るという点に注意が必要です。
これらも踏まえて職場内で周知し、セクハラを防止していくことが重要と言えるでしょう。
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