ガーシー氏への損害賠償請求訴訟、送達「違法」で差し戻し ー大阪高裁
2025/07/14 訴訟対応, 民事訴訟法, エンターテイメント

はじめに
ガーシー元参議院議員が公開した動画により名誉を傷つけられたとして、元兵庫県警警察官の男性が損害賠償を求めた訴訟の控訴審で大阪高裁は10日、一審判決を取り消し、神戸地裁に差し戻しました。送達手続きに違法が認められたとのことです。
今回は民事訴訟法の送達手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ガーシー氏は2022年4月、自身のユーチューブチャンネルに投稿した動画で原告男性について「ヤクザと賭け麻雀をしてクビになった」などと発言していたとされます。
男性は同氏に名誉を毀損されたとして損害賠償などを求め神戸地裁に提訴していました。
しかし、ガーシー氏は住民票の住所から引っ越していたため送達が届かず、公示送達手続きを実施。
同氏が口頭弁論に出頭しないままに今年1月に、原告の請求どおりの認容判決が下されたとされています。
なお、ガーシー氏は判決報道で提訴の事実を知ったといいます。
送達とは
民事訴訟における送達とは、当事者その他訴訟関係人に対し、訴訟上の書類の内容を了知させるために法定の方式に従って書類を交付、または交付を受ける機会を与える裁判所の訴訟行為です。
一般的には“特別送達”と印字された封筒が郵便配達員により配達されます。
送達は当事者にとって重要な書面を各当事者等に送るもので、例えば両当事者間の特定の事件が裁判所で審理されている状態を表す訴訟係属も、この送達が相手方に到達したときから始まるとされています。
相手方もこの訴状の送達を受けることによって、原告側の主張や請求内容を具体的に了知することができ、応訴の準備もできると言えます。
このように両当事者にとって非常に重要な訴訟手続きである送達は、郵便による配達以外にもいくつか用意されています。以下、具体的に見ていきます。
送達の種類
送達にはいくつか種類があり、(1)交付送達、(2)補充送達、(3)差置送達、(4)付郵便送達、(5)公示送達があります。
送達は原則として交付送達によることとされています(101条)。
(1)交付送達は裁判書類等を執行官等が直接手渡しすることを言いますが、郵便配達員によって手渡しされるのを特別送達と言います。
送達を受けるべき者の住所、居所、営業所、事務所で行われます。
住所や居所が不明であった場合や、受取人が拒まない場合は出会った場所で交付することも可能です(105条)。
なお、裁判所書記官は受け取るべき者が出頭した場合は、その場で別事件の書類も交付することができます(100条)。
受け取るべき者の就業場所以外で、受け取るべきものが不在でその他の従業員など相当のわきまえのある者に交付する場合や、就業場所で雇い主などが拒まない場合に交付してくることもできます。これを(2)補充送達と言います(106条1項、2項)。
受け取るべきものが所在しているにもかかわらず、受取を正当事由なく拒否した場合や書類を置いてくることも可能です(106条3項)。これを(3)差置送達と言います。
これら、(1)交付送達、(2)補充送達、(3)差置送達ができない場合に、裁判所書記官が書留郵便等により発送することで送達の効力が生じる送達を(4)付郵便送達と言います(107条)。
公示送達とは
上記付郵便送達すらも不可能な場合に、(5)公示送達によることができます(110条)。いわば最後の手段ということです。
(5)公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付する旨を裁判所の掲示板に掲示することによって行う送達です。
掲示の日から2週間が経過することによって効力が発生します。なお、外国にいる場合は6週間となります。
公示送達が利用できる場合としては、
・当事者の住所、居所、その他送達すべき場所が知れない場合
・就業場所だけは判明しているものの拒否され、差置送達・付郵便送達もできない場合
・外国にいて嘱託送達もできない場合、外国の管轄官庁に嘱託してから6ヶ月を経過しても送達を証する書面が送付されてこない場合
などが挙げられます。
公示送達の申し立ては、受けるべき者が所在不明となる直前にいた場所を管轄する簡易裁判所に行います。
コメント
大阪高裁は、公示送達は当事者の住所などが「手段を尽くして探索したが分からない場合」に限られるとし、DMでの連絡は通常期待される手段だと言え、これを行わずに行った公示送達やその後の判決は違法であるとしました。
住民票の住所から引っ越していただけでは、探索を尽くしたとは言えないと判断されたものと考えられます。
以上のように、公示送達は相手方の住所や居所が不明である場合などに利用できますが、それは手段を尽くし、付郵便送達すらも不可能な場合にのみ認められる最後の手段ということです。
本件一審判決で原告側の請求が満額認められたように、不在の場合は原告の言い分がそのまま通ってしまう危険があります。
訴訟を検討している場合は、送達が問題なく行えるのかについても慎重に検討して進めていくことが重要と言えるでしょう。
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