金融庁が日程の先送りを促す、株主総会の開催日について
2025/02/25 商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに
投資家が有価証券報告書を定時株主総会前に確認できるようにするため、金融庁が企業に株主総会の開催時期を後ろにずらすよう求める方針であることがわかりました。2025年中に方向性をまとめるとのことです。今回は株主総会の開催日とその変更について見ていきます。
事案の概要
日経新聞の報道によりますと、日本の金商法では決算日から3ヶ月以内に有価証券報告書の開示が義務付けられておりますが、欧米各国ではこのような情報開示から株主総会までは日本よりも期間的な余裕があり、日本に比して株主総会前に十分な情報を投資家が得られるとされます。米国では決算日から60日以内に年次報告書開示が義務付けられ、定時株主総会は前回の総会から13ヶ月以内に開催することから、かなり間が開くこととなります。英仏やドイツも年次報告書開示から株主総会までは2~4ヶ月の猶予があります。日本では株主総会前に有報を投資家に示している企業の比率は1%台に留まっており、金融庁は総会の開催時期を1~3ヶ月後ろにずらすよう企業に推奨する方針とのことです。
株主総会と開催日
これまでも取り上げてきたように、株主総会は原則として取締役会の決議に基づいて代表取締役(条文上は取締役)が招集することとなっております(会社法297条3項、4項)。招集の決定に際しては、株主総会の日時・場所、目的事項、書面・電子投票を認めるときはその旨等を決定します(298条1項、4項)。場所については特に制限はありませんが現行法上、上場会社で法務大臣・経産大臣の確認を受け、定款で定めている場合は物理的な場所に加え、インターネットによる参加も可能です。そして株主総会は定時株主総会と臨時株主総会がありますが、定時総会は各事業年度終了後一定の時期に招集することがもとめられております。具体的には定款に定められた基準日から3ヶ月以内に開催されることとなっており(124条2項)、通常事業年度末に基準日が設けられております。
基準日の変更
上記のように一般的な会社では議決権を行使できる株主を特定するため、事業年度末日を基準日とし、その3ヶ月以内に定時株主総会を開催しております。そのため金商法の有報開示の時期と定時株主総会の開催時期が被ることとなり、多くの投資家は定時総会までに有報を十分に確認することができないのが現状とされます。それでは定時総会の開催を遅らせることは可能なのでしょうか。この点、基準日の設定自体は各事業年度の末日でなければならないわけではなく、例えば事業年度末の1ヶ月後とすることも可能です。定款で定められた基準日を変更すれば開催時期もずらすことができるというわけです。なお定款変更をするには株主総会の特別決議が必用とされます(466条)。特別決議は原則として議決権の過半数の株主が出席し、その3分の2以上の賛成で可決となります。
事業年度自体の変更
多くの会社では事業年度を定款で、4月1日から翌年3月31日までと定めております。この事業年度自体を変更することも可能です。これもやはり上記の基準日変更と同様に定款変更が必用であり、株主総会の特別決議によることとなります。これにより事業年度を1月1日から12月31日までといった事業年度に変更することが可能です。しかし一方で事業年度自体の変更には注意すべき点がいくつかあります。まず取締役や監査役など役員の任期に影響を及ぼすことがあります。役員の任期は「選任後◯年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」と定款で定められており事業年度の変更によって既存の役員の任期が終了してしまうことがあるからです。また税務上も注意点があり、決算期を変更する場合は所轄の税務署や都道府県税事務所、市区町村等に異動届を提出することが必用とされます。
コメント
以上のように日本では現状、投資家が定時株主総会前に十分な有報の吟味ができないとされております。そのため金融庁では各企業に株主総会の開催を先送りするよう求める方針とされております。しかし監査法人による監査にかかる期間や取締役等の任期への影響、配当に関する基準日への影響など様々な事情で総会開催時期の変更は難しいとの意見が多く上げられております。開催時期の変更は会社法上は基準日の変更だけで可能ですが、それ以外の多方面に影響が大きく、金商法や税法など多くの法分野で横断的な調整が必用ではないかと考えられます。このように株主総会前の株主やステークホルダーへの情報開示が不十分であるのが現状であり、今後制度の改正が検討される可能性もあります。これらを踏まえて現行法の現状を把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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