佐賀県が職員2人を「能力不足」で分限免職/能力不足を理由とする解雇の適法性
2025/02/05 労務法務, 労働法全般, 行政法

はじめに
佐賀県が男性職員2人を「能力不足」として分限免職処分にしていたことが1月30日に分かりました。処分は地方公務員法に基づき、2024年2月29日付で行われたといいます。
民間企業でいう『普通解雇』に近しい処分となる分限免職処分。
企業でも客観的に合理的な理由があれば解雇が可能とされていますが、解雇までのプロセスが不十分な場合、不当解雇として従業員から後日訴えられる可能性があります。
能力不足で免職
分限免職処分となったのは、50代の男性職員2人です。今回、佐賀県は男性職員2人が、
・業務の指示に従わない
・資料を紛失する
・数日でできる仕事に3か月かかり、仕上がりもよくない
などの勤務態度であったことから、分限免職処分に至ったとされています。
ちなみに、分限処分には、「降任」、「免職」、「休職」、「降給」の4つの種類がありますが、そのうち分限免職処分は、職員の成績が悪い、または病気などの理由で通常の業務がこなせない場合などに、組織としての仕事が滞らないよう該当の職員を免職させる処分です。懲戒処分とは異なり、退職手当は支給されます。
分限免職処分に先立ち、佐賀県は半年間に及ぶ研修を2名に施していたそうですが、研修後も改善が見られず、「最下位の職位に降任しても見合った仕事ができない」と判断したと報じられています。
こうした分限免職処分が正職員に対して下されるのは佐賀県庁では初めてとのことです。
なお、佐賀県では地方公務員法改正に基づき、2016年度から新たな人事評価制度を導入しています。新たな人事評価制度では、職務を遂行するにあたり発揮した能力および業績を把握した上で人事評価が行われ、評価内容は給与、人事管理などに活用されています。
佐賀県では、2年連続で最低評価の人事評価を受けた職員を、業務に支障がある「要支援職員」とみなし、庁内の判定委員会などを経たうえで、当該職員が半年間の職員能力向上支援プログラムの対象かどうかを決めているといいます。
男性職員2人も職員能力向上支援プログラムの対象となり、指導を受けたということですが、結果として県は両名を能力不足と判断したものです。
能力不足での労働者の解雇は認められる?
佐賀県庁の正職員としては初めての事例となった、能力不足による免職。
では、民間企業においては、能力不足を理由とする労働者の解雇は認められるのでしょうか。
解雇について定めた労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められているため、能力不足を理由とする解雇が“権利の濫用”となるか否かがポイントとなります。
この点、一般論として、「他の社員と比べてミスが多い」、「ノルマの達成率が低い」といった事情のみでは、適法な解雇と認められず、権利の濫用とされる可能性が高いとされています。
逆に、「客観的で平等な評価が下されている」という大前提のもととはなりますが、過去の判例に照らす限り、
(1) 企業経営や業務運営に重大な損害を与えるレベルでの著しい成績不良
(2) 研修、他部署への配置転換などの適切な指導・バックアップにも関わらず、改善が見込めない
といった事情が認められる場合であれば、能力不足を理由とした解雇が適法に認められる可能性があります。
なお、こうした判断は、社員の雇用条件や立場などによっても変わる部分があります。例えば、ヘッドハンティングで入社した社員や専門職など、職務や地位が特定され、ある一定の能力値が期待されて労働契約が結ばれている場合には、一般の社員と比べ、能力不足を理由とする解雇が適法に認められやすい傾向があります。
コメント
このように、民間企業において、能力不足を理由に解雇を行う場合、不当解雇とならないよう慎重な確認・検討が必要です。実際、解雇後に元従業員が不当解雇を訴え、認められたケースもあります。
「松筒自動車学校事件」では、自動車教習所の運営会社である被告が、6ヶ月間に入金処理ミスを53回したことを理由に受付・レジを担当していた事務員を解雇したところ、事務員から不当解雇として訴えられました。
この裁判では、実際に事務員が関わったミスは53回中6回ほどで、さらに原告の事務員以外にも複数の従業員がミスに関与していたことが明らかになりました。
最終的に裁判所は不当解雇と認め、会社側に約300万円の支払いを命じています。
解雇を行うにあたり、慎重な社内調査による丁寧な事実認定の必要性を痛感させられます。
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