厚労省「自爆営業はパワハラ」指針に明記へ
2024/11/28 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 刑事法

はじめに
企業が社員にノルマを達成させるために自社商品などを自腹で購入を求める「自爆営業」。その「自爆営業」が、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づく指針にパワハラとして明記される方針です。
「自爆営業」は、主に小売業や保険、物流業界、アパレル業界などで問題となっています。強要された社員の中には自死する人も出ていることから、厚生労働省は今後防止に乗り出すといいます。
自爆営業はパワハラ
自爆営業は、会社側がノルマを達成できない社員に対して、自腹で契約を結ばせたり、必要のない商品を購入させたりする行為を指します。
農協職員が共済の掛け金を支払ったり、自動車販売店の社員が値引き分を負担するなどの例もあるということです。
そんな中、厚生労働省は11月26日の労働政策審議会で、一定の要件を満たす場合は「パワーハラスメントに該当する」として、パワハラ防止指針に明記する方針を示しました。
自爆営業が以下のパワハラ3要件を満たす場合には、パワハラに該当すると判断されることになります。そして、その場合、企業は対策を講じる義務が課されます。
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超える
(3)労働者の就業環境が害される
今回、パワハラ防止法の指針にこれらが盛り込まれた背景には、労働者側からの要望がありました。
これまでにも自爆営業がパワハラと認定された事例自体はあったといいます。しかし、直接規制する法律がなかったことから、自爆営業の法律上の位置づけや違法性の判断基準等が明確にされておらず、民法上の不法行為や公序良俗違反として責任追及しようにも立証が難しいという事情がありました。
そのため、被害者が訴えを提起するハードルが高く、泣き寝入りに終わった事例も少なくないと見られています。
こうした事情も、自爆営業の実態が十分に把握されて来なかった一因と考えられています。
厚生労働省は今後、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で記載の仕方などを議論し、年内にも指針への明記が正式決定される見通しです。そのうえで、来年の通常国会に改正法案を提出するとみられています。
パワハラとなりえる事例は?
では、どのような事例が自爆営業の強要によるパワハラとして認められるのでしょうか?内閣府事務局が2023年11月15日に発表した資料では、例えば、以下のような事例が挙げられています。
○中古車販売店にて
新入社員が入社後に半ば強制的に自社での車購入を迫られ、更に非常に長期間(120 回など)のローンを高金利で組まされた。
自動車保険も自社が代理店となっている保険会社の保険に保険料が高くなるプランで加入を強制される。社員が退職後もローンの手数料が 10 年間会社に入ることで、会社が利益を得られる仕組みとなっている。
○農協での事例
A県の農協においては共済契約のノルマが過大であるために、職員が共済契約を自ら契約し、その家族などにも共済契約を締結させるなどしてノルマを達成する行為が行われていた。その結果、職員の可処分所得が減って経済的に苦しくなってしまうという現象も起きていた。また、共済以外にも、ジュース、機関誌、農作物、家電 製品、背広、仏壇等の販売のノルマも課せられていた。
資料には他にも20弱の事例が紹介されていますが、自社商品を買うか会社を辞めるかを会社から迫られたケース、制服として売り場の商品の購入を強制され給与からその代金分を天引きされたケース(アパレル業界)、ノルマ未達成時に給与が減額されたケースなども記載されています。
いずれのケースでも会社が使用者としての立場を利用し、従業員に不要な商品などの購入を強要しています。
改正法が可決された場合、こうした会社の対応がパワハラ3要素に該当した場合はパワーハラスメントとして断罪されることになります。
コメント
厚生労働省が推し進める法改正が実現した場合、「自爆営業」がパワハラと認定されやすくなることが期待されます。その場合、
・自爆営業でカサ増ししていた売上の低減による経営悪化
・自爆営業で損害を被った従業員による損害賠償請求
・労働基準法違反、刑法違反(強要罪)の告訴
などが企業に降りかかる可能性があります。
企業によっては、自爆営業が慣例となり、違法とも思わず常態化しているケースもあるといいますが、将来的に、自爆営業は企業経営に大きなリスクをもたらすおそれがあります。
自社内での自爆営業の実態把握を進めつつ、経営層を含め、自爆営業の違法性を周知していくことが重要です。
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