障害者施設の元職員、虐待通報を理由とする解雇の無効を主張し提訴
2024/10/29 労務法務, 危機管理, 労働法全般, 障がい福祉業界

はじめに
勤務先の障害者施設の職員による虐待を利用者家族に伝えたことによって懲戒解雇された元職員の女性が解雇は無効であるとして、施設を運営している社会福祉法人に対し地位確認などを求めて東京地裁立川支部に提訴していたことがわかりました。公益通報者保護法にも違反すると主張しているとのことです。今回は懲戒解雇の有効性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、社会福祉法人「ときわ会」が運営する障害者施設で勤務していた原告の女性は昨年9月、顔にあざや傷ができた利用者の写真を他の利用者家族に見せ、「虐待が起きている」などと伝えたとされます。同法人はこのような行為が就業規則に違反する他、勤務中に利用者を2回放置したことがあったとして今年3月に懲戒解雇していたとのことです。なお同法人を巡っては、元理事ら職員約10人による虐待が市に認定されていた他、障害福祉報酬約2千万円を過大に受け取っていたとされております。原告の女性は自治体に通報しても改善しなかったことから利用者の家族に伝えたとし、解雇は公益通報者保護法にも違反するとしております。
懲戒解雇とは
解雇には一般に、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。企業が従業員との雇用契約を解除する、これらの解雇の中では懲戒解雇が最も重いものと言えます。懲戒解雇はその名のごとく、懲戒処分の一種として行われ、職場での窃盗や横領、傷害行為などといった不正行為や、重要な業務命令違反や無断欠勤、経歴詐称やハラスメント行為などが理由となります。懲戒処分は軽いものから順に、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇となっており、懲戒解雇は懲戒処分の中でも一番重いものです。懲戒解雇の1つ手前の懲戒処分である諭旨解雇は、会社が従業員に退職勧告をし、従業員に退職届と提出させて、解雇とするというものです。あくまで自発的な退職として扱われるため、離職票にも自己都合退職と記載されることがあります。この諭旨解雇に応じない場合は懲戒解雇に移行することとなります。
懲戒解雇の有効要件
懲戒解雇が有効となるためには一般に、(1)懲戒解雇の根拠規定が就業規則に記載されていること、(2)懲戒解雇の相当性、(3)懲戒解雇をするまでの手続きが適正であることの3つの要件を満たす必要があります。まず懲戒解雇も懲戒処分の一種であることから就業規則に明記して従業員の周知しておく必要があります。懲戒自由としては窃盗や横領などの犯罪行為が典型例と言えます。そして懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となるとされております(労働契約法16条)。これは懲戒解雇以外の懲戒処分にも同様の規定が置かれており、客観的合理性と社会通念上相当性が認められない懲戒処分は権利濫用として無効となります。そして懲戒解雇には適正な手続きが求められます。懲戒事由の存在を慎重に調査し、対象従業員に丁寧に説明し、弁明の機会を与えることが必要です。特に従業員の言い分を聞くための弁明の機会は非常に重要と言えます。
公益通報者保護制度
ここで公益通報者保護制度についても簡単に触れておきます。公益通報とは、労働者等が、勤務先の不正行為を不正の目的ではなく一定の通報先に通報することを言います。この公益通報をしたことを理由に解雇や降格などの不利益取り扱いが禁止されます。対象となる労働者は正社員だけでなく、派遣社員、パート、アルバイトなどの非正規労働者から公務員まで含まれます。退職や派遣終了の場合は1年以内の者に限定されます。取締役や監査役などの役員も含まれます。通報する内容は一定の法令違反行為に限られます。この法令違反行為とは、国民の生命、身体、財産その他の利益保護に関わる法律として最終的に刑罰もしくは過料につながるものとされます。具体例としては、刑法、食品衛生法、道路運送車両法、建築基準法、金商法、景表法、独禁法、食品表示法など多岐にわたります。なおパワハラやセクハラについては労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法がこれらに対する罰則を置いていないことから直ちに対象とはなりませんが、重大な暴行や脅迫、強制わいせつなど犯罪行為に当たる場合は該当することとなります。
コメント
本件で原告の女性は障害者施設で虐待が行われていることを利用者家族に伝えたことを理由に懲戒解雇されたとされております。同法人では元理事ら職員による虐待行為が市によって認定されていることも踏まえ、懲戒事由に該当するか、客観的合理性、社会通念上相当性があるのか、また適切に手続きが履践されたのかが争点となってくるものと考えられます。以上のように懲戒解雇は解雇の中でもっとも重い処分であり、離職票にもその旨記載されることから従業員にとっては極めて重大な不利益となります。そのため有効要件も厳格なものとなっております。特に弁明の機会など適正な手続きを踏んだかが重要です。懲戒事由も含め、これらの要件を社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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