エフエム東京旧経営陣に2億円超賠償命令、不適切会計めぐる訴訟に判決
2024/10/18   商事法務, 総会対応, 訴訟対応, 会社法

はじめに


東京都を中心にFMラジオ放送を行う、株式会社エフエム東京。旧経営陣による不適切な会計処理をめぐり、会社が当時の会長ら元取締役4人に対し損害賠償を求めた訴訟の判決が10月10日、東京地方裁判所で下されました。裁判所は、旧経営陣に対し、2億円超の損害賠償の支払いを命じています。

 

内部告発で粉飾決算が発覚


この訴訟のきっかけは、2019年8月にエフエム東京が公表した、同社の粉飾決算の問題に遡ります。

粉飾決算疑惑は同年4月に内部告発で発覚。エフエム東京は第三者委員会を設置し、調査を進めていました。

調査の結果、当時、デジタル放送事業(i-dio 事業)全体の状況が芳しくなかった中、事業撤退や経営陣の責任追及を避けるため、旧経営陣は以下のような実態を欠いた子会社株式の移動を行ったとされています。

 

実態を欠いた子会社株式の移動

■社長旧知のB社による出資と子会社ジグノシステムジャパンによる買い戻し
・エフエム東京グループにおいてi-dio事業を担うTOKYO SMARTCAST 株式会社に対し、当時の社長と旧知の仲だったI氏が代表を務めるB社が3,000株(2.5億円)を出資。
・その際、株式の引き受け期間を3ヶ月としたが、実際には3ヶ月後にエフエム東京の子会社であるジグノシステムジャパン株式会社が2,000株を買い戻し。
・上記の金利相当分としてI氏に対し、顧問料の名目で総額396万円が支払われる。


一連の流れから第三者委員会は、B社が行ったのは出資ではなく「融資」と判断。その場合、TOKYO SMARTCASTにおけるエフエム東京の議決権比率を算定する際は、議決権総数からB社分3000株を除外する必要がありますが、その結果、エフエム東京の議決権比率は50%となったといいます。

また、TOKYO SMARTCASTの取締役の過半数がエフエム東京およびジグノシステムジャパンの役職員等であったことから、実質支配力基準により、TOKYO SMARTCASTをエフエム東京の連結子会社と認定しました。

 

■ジグノシステムジャパンが持つTOKYO SMARTCAST株式のA社への譲渡
・ジグノシステムジャパンの持つTOKYO SMARTCAST株 1,400株(7,000万円)をA社が買い取り。
・その際、13ヶ月後にA社がTOKYO SMARTCASTに対し買い取り請求できるとの合意。
・さらに、一連の買い取りについて、エフエム東京子会社の「株式会社メディアコミュニケーションズ」が保証する旨の合意。
・加えて、株式買い取りのためにA社が銀行から借り入れた資金の金利を負担する趣旨で、TOKYO SMARTCASTがA社に210万円を支払う旨の合意。


第三者委員会は、こうした流れから、本件は一時的な“株式預かり”であり、A 社が買い取ったとする 1,400 株については、ジグノシステムジャパンが所有を継続していたと判断すべきとしました。
その結果、エフエム東京の議決権比率は 45.1%となり、さらに、TOKYO SMARTCASTの取締役の過半数がエフエム東京及びジグノシステムジャパンの役職員等であったことから、実質支配力基準により TOKYO SMARTCASTをエフエム東京の子会社として認定するとしています。

 

第三者委員会の出した結論


このように、TOKYO SMARTCASTが実際はエフエム東京の子会社であったにも関わらず、エフエム東京は2017年3月期から2019年3月期の連結決算で、損失を抱えたTOKYO SMARTCASTを連結決算から外す粉飾決算をしていました。

そのため、エフエム東京は、TOKYO SMARTCASTを連結子会社として業績を取り込む処理を行わなかった過年度の連結決算は修正が必要であると結論づけています。

また報告書では、一連の問題行為はi-dio事業に関与した多数の幹部職員らによって組織的に行われていたものだと明記されていましたが、現在は不正に関わったと認められる取締役は全員退任し、経営陣の刷新が図られています。

 

エフエム東京は旧取締役らを提訴


調査結果を受け、エフエム東京は、2022年4月19日、当時の会長ら旧取締役4人が法令違反及び善管注意義務違反があったとして総額約4億8,320万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴しました。

判決で裁判所は、会社法に違反した会計処理があったと指摘。「取締役としての任務を怠った責任がある」などとして、10月10日、旧取締役ら4人に対し、計約2億8,000万円の支払いを命じました。

ちなみに、この訴訟に関連し、元会長ら2名は、取締役会で決議された退職金の支払いをエフエム東京に求める反訴を提起していました。これに対し、裁判所は、株主総会や取締役会で支払いについて決定が下されていることを根拠に、エフエム東京に対し、計約2億8,900万円の支払いを命じています。

 

コメント


不正会計が発覚した場合、会社と旧経営者間、会社と銀行間など、さまざまな当時者間で長年にわたり訴訟が展開されるおそれがあります。
例えば東芝で2015年に発覚した不正会計では、この問題で株価が暴落したとして複数の銀行が約140億円の損害賠償を求めて提訴した事例があります。この裁判は2023年に44億円で和解が成立したとされています。

東芝不正会計を巡る証券訴訟、44億円で和解(企業法務ナビ)

このように、不正会計の悪イメージは長く尾を引き、ステークホルダーからの信頼失墜にも繋がります。

従業員のみならず経営陣に対しても、コンプライアンス教育を徹底し、経営陣が不正をしにくい仕組みを構築することが求められます。

 

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