宝塚歌劇団に是正勧告、契約上はフリーランスでも事実上「労働者」と認定
2024/09/13 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, エンターテイメント

はじめに
宝塚歌劇団の劇団員で当時25歳だった女性が2023年9月に死亡した問題で、歌劇団を運営する阪急電鉄株式会社は、「労働基準監督署から9月5日付で、労働基準法に基づく是正勧告を受けた」旨発表しました。
遺族によると、女性が亡くなる直前1ヶ月の時間外労働は270時間以上にのぼったといいます。
劇団員急死で是正勧告
2023年9月30日、宝塚劇団員の女性がマンション敷地内で亡くなりました。自殺と見られています。
事件を受けて、西宮労働基準監督署は宝塚歌劇団の活動実態などを調べるべく、2023年11月以降、複数回にわたる立ち入り調査を実施していました。
調査開始から約1年、阪急電鉄は9月5日に労働基準監督署から是正勧告を受けたことを明らかにしました。
一部報道によると、勧告の内容は「労務管理の不備」を指摘するものだったといいます。
歌劇団では、入団から5年目までの劇団員とは“雇用契約”、6年目以降の劇団員とは“業務委託契約”を結んでいます。
当時、亡くなった女性は入団7年目で、歌劇団との間で業務委託契約を締結し、いわゆるフリーランスの立場で働いていました。
しかし、遺族側は、
・歌劇団との専属契約であったこと
・契約が拘束性の強い内容で女性が歌劇団側の指示命令に従う立場であったこと
などから、女性は、事実上、歌劇団と労働契約を結んだ「労働者」だったと主張しています。
そして、それを前提に、女性の時間外労働について問題視しています。
遺族側によると、急死する直前1カ月の時間外・休日労働が“過労死ライン”とされる月80時間を大きく上回る277時間に上っていたとのことです。
この点、歌劇団側による調査報告書でも業務時間の試算結果が公表されており、急死直前の1カ月に118時間以上の時間外労働があった可能性があるとまとめられています。
そのため、調査報告書では長時間業務などで心理的負荷がかかっていた可能性が指摘されています。
こうした中、労働基準監督署は、女性が“事実上の労働者”に該当する可能性があるとして、違法な時間外労働などの是正を求めたとみられています。
阪急電鉄側は、現時点で勧告の具体的な内容について明らかにしていませんが、後日、今後の具体的な取り組みとともに発表があるとみられています。
西宮労働基準監督署からの是正勧告書の受領に関するお知らせ(阪急電鉄株式会社)
フリーランスの労働者性について
「新・フリーランス実態調査2021-2022年版」によりますと、日本のフリーランス人口は1577万人に上り、今後も拡大が予想されています。
事業者との間で雇用契約を結ぶ「労働者」と異なり、「フリーランス」は業務委託契約等に基づき個人として働きます。そのため、原則、労働基準法をはじめとした労働各法の適用・保護を受けません。
「フリーランス」に該当するか否かは一次的には、締結している契約形態により区別されますが、実際の働き方に照らし、事実上の「労働者」と判断されるケースも少なくありません。その際の判断は、以下などを総合的に勘案し、個別具体的に行われます。
(1)事業者の指揮監督下にあるか
仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無
(2)報酬の労務対償性があるか
報酬の性格が使用者の指揮監督下で一定時間働くことに対する対価となっているか(労働の結果による金額の較差の大小、欠勤による報酬の減額の有無、超過勤務時の別手当の支給有無)
(3)事業者性があるか
機械・器具の負担関係、報酬の額
(4)専属性の程度
経済的に当該企業に従属しているか(他社業務に従事することへの制限の有無、時間的拘束の度合い、報酬に生活保障的な要素が伺える固定給があるか)
仮に、事実上の「労働者」と認められた場合、労働基準法の労働時間や賃⾦等に関するルールが適⽤されると共に、雇用保険・労災保険などが適用されることになります。
コメント
仕事を自由に選べる、就業時間を自分でコントロールできる、実力に応じて収入を伸ばせるなど、多くの魅力がある「フリーランス」。その一方で、事業者の中には、労働基準法による労働時間や賃金等の制限を回避する目的で、事実上の労働者との間で業務委託契約を結び「フリーランス」として扱うところも少なくないといわれています。
後日の紛争を避けるうえでも、フリーランス・事業者側の双方において、就業の実態が「労働者性」を帯びたものか否かをあらかじめ確認することが重要になります。
また、仮に労働者性のない「フリーランス」と認められる場合でも、事業者側がフリーランスに対し不当な不利益を与えることは規制の対象となります。
今年、4月28日には、フリーランスを保護し安定的に働くことができる環境を整えるべく、いわゆる「フリーランス保護新法」が成立し、11月1日に施行されます。
各業界で人手不足が叫ばれる昨今、今後、業者がフリーランスと契約を結ぶケースも増えると予想されます。
フリーランス保護に対する今後の動向をしっかり注視し、適正な取引に努める必要があります。
【参考リンク】
今年秋施行予定、フリーランス新法とは
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