東京地裁がジーネクストへの仮処分申し立てを却下、新株発行差止について
2024/08/19 商事法務, 訴訟対応, 会社法

はじめに
顧客対応システムの「ジーネクスト」が実施予定の第三者割当増資を差し止めるため、創業株主が仮処分の申し立てを行っていたことに東京地裁が却下していたことがわかりました。経営権を巡る攻防が続いていたとのことです。今回は新株発行とその差し止めについて見ていきます。
事案の概要
日経新聞によりますと、ジーネクストの創業株主と同社の現経営陣との間で経営権を巡る攻防が続いてるとされます。同社では今年6月の定時株主総会でそれぞれ取締役候補を擁立したものの採決に至らず、今年9月に予定している臨時株主総会を前にコンサル・投資会社の割当先とする第三者割当増資が発表されました。これに対し、創業株主は経営支配権の維持を目的とした不公正発行に当たるとして、差し止めのため仮処分を東京地裁に申し立てていたとのことです。また、創業株主は定時総会で自身が提出した議長不信任動議や会社側が提出した役員選任議案に対する修正動議についても会社側が採決しなかった点に問題があるとしております。
新株発行の差止
新株発行に際して法令や定款違反があった場合、新株発行無効の訴えを提起することができます(会社法828条1項2号)。提訴期間は公開会社で6ヶ月、非公開会社で1年となっており株主や取締役、監査役などに提訴権が認められております(同2項2号、3号)。また新株発行がなされる前に差止ることも可能です。この場合は法令・定款違反に加えて「著しく不公正な方法」による発行の場合も差止原因となっております(210条1号、2号)。なお新株発行ではなく、新株予約権発行についても差し止めることが可能となっております(247条)。この場合の差止原因も新株発行と同様に法令・定款違反と著しく不公正な方法による発行となっております(同1号、2号)。公開会社が取締役会の決議によって第三者割当増資をする場合、2週間前までに株主に通知または公告をする必要がありますが(201条3項、4項、240条2項、3項)、これは株主に差止の機会を提供するためとされます。
著しく不公正な方法
上記のように新株発行差止原因として「著しく不公正な方法」による発行が挙げられております。ではこの「著しく不公正な方法」とはどのような方法なのでしょうか。この点については、不当な目的を達成する手段として株式が発行された場合を言うとされます。そして特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合に当たるとされております(東京地裁平成16年7月30日)。これを一般に主要目的ルールと呼びます。特定の株主の持ち株比率が著しく低下することを認識しつつ、株式発行がなされた場合は株式発行を正当化させるだけの合理的な理由が無い限り不公正発行となるとした裁判例も存在します(東京地裁平成元年7月25日)。なお資金調達の必要性があり、事業計画にも合理性がある場合は支配権維持の意図があったとしても不公正発行には当たらないとされます(東京高裁平成16年8月4日)。
新株発行無効原因
新株発行がすでになされた場合にそれが無効となるのはどのような場合でしょうか。上でも触れたように新株発行については無効の訴えも用意されております。しかし会社法828条1項ではどのような場合に無効の訴えが提起できるのかまでは規定されておらず、無効原因は解釈に委ねられております。そしてすでに株式が発行され流通してしまっている場合にこれを無効とすることは、新株主や第三者に不測の損害を与えるおそれがあります。そこで無効原因は重大な法令・定款違反とされます。具体的には、定款所定の発行可能株式総数を超える場合、定款の定めのない種類の株式の発行、定款で株主に割り当てを受ける権利が付与されている場合に、その規定を無視してなされた発行などが無効と考えられます。そして発行差止に違反してなされた発行や、その前提として株主への通知・公告を欠く発行も無効原因とされております。
コメント
本件で東京地裁は、定時総会で流会となり残留した権利義務取締役らは臨時総会で取締役候補となることが予定されていないなど、支配権維持を意図した増資とはみとめられないとして仮処分の申し立てを却下しました。自己資本を増強して債務超過を解消し、収益改善のための対策を講ずる必要性は高いとし主要目的は資金調達であると判断されたとのことです。以上のように新株発行の主要な目的が経営権維持にある場合は差止原因となる可能性があります。また定款で定められた発行可能株式総数を超える場合や、定款に規定されていない種類の株式を発行した場合は発行後も無効原因となります。経営権争いが生じている場合に新株発行を行う際には主要な目的に留意して進めることが重要と言えるでしょう。
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