参議院本会議で可決成立、「育成就労制度」とは
2024/06/26 労務法務, 外国人雇用, 労働法全般

はじめに
外国人技能実習制度に代わり、新たに「育成就労制度」を設ける改正入国管理法などが14日、参議院本会議で賛成多数で可決成立しました。外国人の労働者としての人権を守るとのことです。今回は育成就労制度について概観していきます。
改正の経緯
技能実習制度は1960年代に海外進出した日本企業が現地法人から現地社員を招聘し、技能や知識を習得した現地社員が帰国後に母国で技術を発揮したことから、国際協力の一貫として1981年に在留資格が創設されたことから始まります。1993年に在留資格「特定活動」の一類型として技能実習制度が創設され、1997年には実習期間も3年間に延長されます。しかしこの制度は一方では安価な労働力として悪用されるなど、近年多くの人権問題が発生しており、パスポートの取り上げや強制貯金、長時間の時間外労働や保証金・違約金による身柄拘束、性暴力、負傷や妊娠した場合に強制帰国など多くの違法行為が報告されております。2022年には国連の人種差別撤廃委員会からも劣悪かつ虐待的、搾取的な慣行などと指摘され、米国国務省の報告書でも強制労働と表現されるなど国際社会からの批判も相次ぎました。それを受け日本では幾度もの有識者会議で議論が進められ、現行の技能実習制度を廃止して新たに育成就労制度を新設する出入国管理法等の改正案が今年2月に閣議決定し、今回の成立に至りました。
技能実習から育成就労へ
現行の技能実習制度では、入国1年目を技能等の習得を目的とする技能実習1号、2~3年目を技能等に習熟するための技能実習2号とし、4~5年目を技能等の熟達を目的とする技能実習3号として、2号または3号から特定技能1号に進むこととなっております。新制度ではこの技能実習1号~3号を廃止して、原則3年間の「育成就労」により特定技能1号の水準まで育成することとなります。また技能実習では原則として転籍はできず、また制度上、技能を習得し終えたら帰国することが前提とされておりました。新制度では長期間産業を支える人材として地域に根付き共生できる制度とし特定技能2号になれば事実上永住も可能となり、また転籍もやむを得ない事情がある場合や、本人の意向による場合も可能となるとされます。
その他の変更点
上記以外にも育成就労制度では現行の技能実習制度から多くの変更点が盛り込まれております。在留期間は最長5年から原則3年(特例で最大6年)、派遣が不可から農業漁業で可、管理団体が管理支援機関に変更、マッチングも管理支援機関が行う、送出機関が政府認定送出機関から職安法に基づく必要な範囲に、産業分野別の人数枠が新設、就労開始時点での必要な日本語能力が原則不要(介護で日本語能力試験N4)から原則N5に変わるなどしております。労働者としての権利保護や、不適切な送出、受け入れなどを防止するため、特定技能所属機関(受け入れ機関)が1号特定技能外国人の支援を外部委託する場合の委託先を登録支援機関に限定され、また不法就労助長罪が3年以下の懲役、300万円以下の罰金から5年以下の懲役、500万円以下の罰金に厳罰化されます。そして永住許可の要件も明確化され、取消事由も追加されます。ただし特段の事情がない限り引き続き在留が許可されるとされます。
特定技能の対象分野の追加
今年3月29日の閣議決定で、特定技能の対象分野が追加されております。特定技能制度は、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り認められておりますが、新たに「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」「工業製品製造分野」「造船・舶用工業分野」「飲食料品製造業分野」が追加されます。今回の育成就労制度への移行で、従来受け入れができていた分野で受け入れができなくなる可能性が懸念されていたとされ、本閣議決定でそのような分野を補完される見通しとなっております。
コメント
日本には約40万人の技能実習生が在留していると言われております。技能実習制度は本来国際貢献を目的として、外国から実習生を受け入れ、日本で技術を習得して母国に持ち帰り、産業発展を促すというものでした。しかし実際には日本の労働力不足を補う安価な労働力として利用されていたのが実情とされており、多くの批判が寄せられておりました。今回の制度改正で、「国際貢献」という目的は削除され、人材育成と人材確保が目的となりました。一定の要件で永住化も可能となり、転籍もできるようになるなど、労働者としての権利保護も図られております。また悪質なブローカーの排除や罰則強化なども行われます。一方で一定の日本語能力取得の必須化や一定の場合に永住許可取消など外国人や受入れ側の負担が増加する側面も見られます。技能実習生を受け入れている場合や、今後受入れを検討している場合は、これらの制度の内容や変更を注視し、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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