伊東純也選手の訴訟が東京地裁へ/民事訴訟の「管轄」と「移送」
2024/05/29 訴訟対応, 民事訴訟法

はじめに
サッカー日本代表歴のある伊東純也選手が、虚偽の告訴を受けたとして女性2人に損害賠償を求めている裁判で、審理が大阪地裁から東京地裁に移送されていたことがわかりました。被告側からの申し出とのことです。今回は民事訴訟の管轄と移送について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、フランスの「スタッド・ランス」に所属するサッカー日本代表の伊東純也選手(30)をめぐり、女性2人が性被害を受けたとして準強制性交などの疑いで刑事告訴しているとされます。一方で、伊東選手側は事実無根であるとして、虚偽告訴の疑いで逆告訴し、さらに女性2人に対して2億円余りの損害賠償を求める民事訴訟を起こしているとのことです。刑事訴訟では、双方不起訴の場合、事実として何があったのか世間には伝わらないとし、名誉回復のためにも民事訴訟で事実認定をしてもらうとしています。大阪地裁は5月7日付で東京地裁に審理を移送しました。被告側からの申立があったとされます。
民事訴訟の裁判管轄
取引先や顧客との間で、代金不払いや貸金返還などの紛争が生じた場合、最終的には裁判所に訴えを提起して法的に解決を図ることとなります。しかし日本国内には最高裁を頂点として全国各地に多くの裁判所があり、本庁・支部合わせて250以上あるとされます。訴えを提起する場合、または逆に訴えられる場合、どの裁判所に提起されることとなるのでしょうか。これについて民事訴訟法では、一定の基準・要件のもとにどの裁判所に管轄があるかを定めています。これを法定管轄と呼び、具体的には職分管轄、事物管轄、土地管轄に分かれています。原則としてこの法定管轄に従うこととなりますが、事物管轄と土地管轄に関しては当事者の合意によって法定管轄とは異なる裁判所を管轄裁判所とすることも可能となっています。これを合意管轄と呼びます。以下具体的に見ていきます。
民事裁判管轄
(1)法定管轄
上でも触れたように法定管轄には職分管轄、事物管轄、土地管轄があります。職分管轄は、一審は簡裁または地裁、二審は地裁または高裁、三審は高裁または最高裁といった審級管轄や、人事訴訟や家事審判は家裁、強制執行は執行裁判所といった裁判所の機能の分配に関する管轄を言います。事物管轄とは、一審について訴額が140万円以内は簡裁、140万円を超える場合は地裁といった訴訟の目的の額に着目した管轄を言います。そして土地管轄は、全国のどの裁判所で審理をするかについての管轄です。これには普通裁判籍と特別裁判籍があり、普通裁判籍は被告の所在地を管轄する裁判所が原則となっています(民事訴訟法4条1項)。法人の場合は主たる事務所・営業所が基準となります(同4項)。特別裁判籍はこれとは別に一定の事情によって認められる裁判籍を言います。具体的には金銭の支払地などの義務履行地(5条1号)、被告の事務所・営業所所在地(同5号)、不法行為地(同9号)、不動産所在地(同12号)などがあります。普通裁判籍に加え、これらの場所の裁判所にも提起できるということです。
(2)合意管轄
これらの法定管轄以外にも、当事者の合意によって管轄裁判所を決めることが可能です(11条1項)。これを合意管轄と言います。合意管轄には特定の裁判所のみを管轄裁判所とする専属的合意と、法定管轄に加えて特定の裁判所も管轄裁判所とする付加的合意があります。これら管轄の合意は書面で行うことが必要です(同2項)。通常は契約書などにこのような条項を盛り込むこととなります。
(3)応訴管轄
原告側が上記法定管轄以外の裁判所に訴えた場合でも、被告が管轄違いを主張せずに応訴したときはその裁判所にも管轄権が発生することとなります(12条)。これを応訴管轄と言います。具体的には「管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたとき」となっています。管轄違いの抗弁をした場合、裁判所は原則として管轄裁判所に移送することとなります(16条1項)。
移送について
移送とは、裁判が裁判所に係属した際に、その裁判所から他の裁判所に担当を移すことを言います。この移送は裁判所の決定によって行います(民訴規則8条)。移送には管轄違いに基づく移送(16条)、著しい遅滞・当事者間の衡平を図るための移送(17条1項)、簡裁から地裁への裁量移送(18条)、必要的移送(19条1項)があります。管轄違いは上でも触れたように法定管轄や合意管轄に違反している場合になされます。著しい遅滞を避けるため・当事者間の衡平を図るための移送は管轄には違反していなくても当事者の申立または職権で行えます。簡易裁判所は管轄がある場合でも争点が複雑な場合など地裁で審理したほうがいいと裁判所が考える場合は申立または職権で移送できます。そして必要的移送は、一審で管轄がある場合でも、当事者が申立て、それに対し相手方が同意した場合は移送しなければなりません。ただしそれにより訴訟が著しく遅滞する場合または被告が本案について弁論した後はできません。しかし簡裁から地裁へ、または簡裁での不動産に関する訴訟の場合は被告の本案弁論の後でも可能です(19条1項、2項)。
コメント
本件で伊東選手は女性2人による性加害による告訴が虚偽であるとして損害賠償を求め大阪地裁に提訴しました。詳細は不明ですが、被告の住所地が東京である場合は普通裁判籍は東京地裁となります。しかし損害賠償債務の義務履行地は原則として原告の所在地であり、不法行為地も特別裁判籍となります。そして今回は被告側の申立により東京地裁に移送となりました。原告側が同意したか、または当事者間の衡平を図る必要があると判断されたのではないかと考えられます。以上のように民事訴訟ではかなり複雑な管轄の定めが置かれており、移送される場合もいくつか規定されています。また契約などの際にどこで裁判をするかの合意も可能です。これらの規定を今一度見直して、紛争に備えておくことが重要と言えるでしょう。
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