配転命令めぐり鬱病発症の女性が会社を提訴も、配転命令は適法と判断 ー東京地裁
2024/02/01   労務法務, 労働法全般

はじめに

 配転命令でうつ病を発症したとして、歯科用品販売会社「歯愛メディカル」(石川県白山市)の従業員の女性が地位確認や未払い残業代の支払い等を求めていた訴訟で東京地裁は30日、約540万円の支払いを命じていたことがわかりました。主張されていた配置転換命令については適法とのことです。今回は配置転換命令の適法性について見ていきます。

 

事案の概要

 報道によりますと、原告の女性は2018年2月に入社し東京支社に勤務し、介護施設向け通販カタログ事業の媒体責任者として従事していたとされます。しかしその後、2021年1月に石川本社への配置転換を命じられ、それを拒否したところ、東京支社への出社を会社側が拒否したとのことです。その後、うつ病と診断された原告女性は同社に対し、地位確認と未払い残業代の支払い等を求め提訴しておりました。訴訟では、

・労働契約上の地位
・時短制度や固定残業代制度の有効性
・役員からのパワハの有無
・配置転換命令濫用の有無

などが争点となったとされます。原告側の主張では、会社からの配置転換命令は、存在しないプロジェクトへの配転であったとのことです。

 

配置転換とは

 配置転換とは、同一の企業内で職種や就業場所、職務内容などを変更することを言います。労働契約法7条では、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知サせていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」とされており、就業規則や労働協約等に定めがある場合は企業側に配置転換命令権が認められ、労働者との合意なくして配転命令を出すことが可能と言われております。社内で適材適所に人材を配置し事業成長や人材育成が期待できます。しかし、勤務地限定特約や職務限定の合意が労使間で行われている場合は配置転換はできないとされます。また、不必要な配転や正当な理由の無い配転もできません。このような場合は違法な配置転換権の濫用となります。それではどのような場合に配転命令権の濫用となるのでしょうか。以下、具体的に見ていきます。

 

配転命令権の濫用

 配転命令(転勤命令)の適法性について判例は、使用者の配転命令(転勤命令)権は無制約に行使できるものではなく、これを濫用することは許されないとし、(1)業務上の必要性が存在しない場合、(2)業務上の必要性が存在する場合であっても転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされた場合、(3)労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情が認められる場合は権利濫用となり違法となるとされております(大阪地裁昭和57年10月25日 東亜ペイント事件)。社内の労働力の適正配置や業務効率化、人材育成、業績悪化時の雇用の維持など会社にとって合理的な理由が必要です。また従業員に対する嫌がらせや報復、退職へ追い込むためなど、不当な動機が無いことも必要です。また育児中や持病のある従業員を他の候補者がいるにも関わらず生活環境を悪化させるような配転することも違法となる可能性が高いと言えます。

 

配転命令が違法とされた裁判例

 配転命令が違法とされた事例として、うつ病の疑いがある長女と脳炎の後遺症による発達遅延にある次女、体調不良の両親を抱える帯広勤務の従業員を札幌勤務とした例が挙げられます。この例では一家での札幌への転居の困難性や他に5人も候補が居た点などが考慮され、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと判断されました(札幌地裁平成9年7月23日)。また重症のアトピー性皮膚炎の子供を育児し共働きの従業員を東京本社から大阪支社に配転とした事例では、通常甘受すべき不利益を著しく超えると認めたことに加え、労働者事情や意向などを真摯に考慮せず、既に配転を所与のものとして押し付ける態度を一貫して取っていたとして改正育休法26条の趣旨にも違反しているとされております(東京地裁平成14年12月27日)。業務上の必要性が高くないにもかかわらず、他の従業員とトラブルを起こすなど問題があるとしてシステム技術者を倉庫係に配転したことが違法とされた事例もあります(東京地裁平成22年2月8日)。

 

コメント

 原告側の主張では、原告女性は勤務地限定契約を希望していたものの、入社後に契約書から勤務地限定の条項が削除され、会社側からは99%東京から転勤することはないと説明されたといいます。しかし、同社は石川本社への移動を打診。原告女性が「東京の自宅のローンを支払い続ける必要があること」などを理由に拒否したところ、東京支社での就労は認めないとされたとのことです。
配転の理由は事業の再立ち上げであったとされていますが、3年が経過しても事業は立ち上がっておらず、自己都合退職を迫るための存在しないプロジェクトだったと主張しています。
これらが事実であった場合、配転命令権の濫用に当たる可能性があると言えますが、東京地裁はこれらを認めず、違法性は無いと判断しました。

以上のように配転命令権が認められるには就業規則などの根拠に加え、業務上の必要性や不当な動機が無いこと、また著しい不利益を与えないことなどが必要です。また、従業員の事情なども考慮し真摯に話し合うことも重要と言えるでしょう。

 

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