大阪地裁が「龍のしっぽ」撤去命じる、時効取得と所有権の範囲
2023/10/30   不動産法務, 行政対応, 民法・商法, 外食

はじめに

 大阪ミナミの人気ラーメン店「金龍ラーメン道頓堀店」の立体看板の龍のオブジェのしっぽ部分が隣接地にはみ出ているとして撤去が求められていた訴訟で26日、大阪地裁が撤去を命じていたことがわかりました。土地については時効取得が認められたとのことです。今回は時効取得と所有権の範囲について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、金龍ラーメンの龍の形をした立体看板は1992年頃に設置され、店舗正面の北側上部に本体があり、しっぽ部分は店舗西側の壁から飛び出しており、その下にはひさしも設けられているとされます。西側の隣接地は現在は通路として使用されておりますが、その部分を所有している不動産会社が建物を新築するうえで同立体看板のしっぽ部分とひさしが土地の使用を制限しているとして撤去を求めておりました。金龍ラーメン側はしっぽ部分が飛び出している西側部分も時効取得していると主張し、原告の不動産会社側はあくまで空中の工作物であり係争部分を排他的に占有しているとは言えないと主張していたとのことです。

 

時効取得とは

 民法162条1項によりますと、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得するとしております。また占有開始時に善意無過失であった場合10年で所有権を取得するとされております(同2項)。これは長期間継続した事実状態の保護と法律関係の安定を図ることが趣旨とされます。平穏かつ公然とは、暴力的に占有したり、隠匿したりしていない場合を言います。善意無過失とは自己に所有権があるものと信じ、そこに過失がない場合を言います。そして所有の意思とは、所有者として物を排他的に支配する意思を言い、外形的・客観的に定められるとされます(最判昭和45年6月18日)。たとえば占有開始の原因が賃貸借であった場合は否定されます。この場合は何年占有していても時効取得できません。

 

取得時効と推定規定

 上記のように取得時効には平穏、公然、善意、無過失といった要件が規定されております。それでは時効取得を主張する側はこれらの要件を全て立証する必要があるのでしょうか。民法186条1項では、所有の意思をもって占有する者は、善意で平穏かつ公然と占有するものと推定されるとされます。つまり時効取得者は原則として平穏、公然、善意については立証する必要がなく、逆に相手方がこれらの要件に該当していないことを立証する必要があるということです。しかし無過失に関しては推定規定が無く、時効取得を主張する側が立証することとなります。ここで過失が認められる場合とは調査を尽くさなかった場合などです。登記簿を調査しなかった、図面を精査しなかった、立て札や看板があるにもかかわらず調査しなかったといった場合が典型例と言えます。

 

所有権の範囲

 民法206条によりますと、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物を使用、収益及び処分をする権利を有する」としております。それでは土地に関して、自由に使用・収益・処分できる範囲はどこまでなのでしょうか。民法207条には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」としております。つまり土地の所有者はその土地の地下や上空も使用することができるということです。無断で他人の土地の地下や上空を侵害した場合は不法行為となるとされます(709条)。しかし民法には土地の上下と規定されているだけで具体的な数値は規定されておりません。そこで他の法令を参考にすることとなります。まず上空については航空法81条と施行規則174条で最低安全高度が定められており家屋の密集している地域では建物の上端から300mとされます。そして地下に関しては、通常建設の用に供されることがない大深度地下である地表から40mまでといわれております(大深度地下法2条1項1号、施行令1条)。この上下の範囲で自由に使用できるということです。

 

コメント

 本件で金龍ラーメン側は隣接地に飛び出た立体看板のしっぽ部分について時効取得が成立すると反論していたとされます。しかし大阪地裁は、立体看板とひさしは店舗の主要構造部とみることはできず、係争部分を排他的に占有していたとは認められないとして時効取得を否定しました。その上でしっぽ部分とひさしが原告の所有権を妨害し、土地を一体的に使用することで得られる収益を妨げているとし撤去を命じる判決を言い渡しました。以上のように土地の所有権は一定の範囲でその地下と上空に及びます。そこに建造物の一部が侵害していても時効取得が成立することは困難と言えます。自社の店舗の看板の一部等が隣接地に入り込んでいないか、また逆に他社の看板などが自社所有地に入り込んでいないかなど、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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