九電が取消し求め提訴、判例から見る課徴金取消訴訟
2023/08/07   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法, エネルギー関連

はじめに

 九州電力は7月31日、関西電力とカルテルを結んだとして公取委から課徴金納付命令を受けたことに関し、取消しを求め提訴すると発表しました。公取委のとの間で見解の相違があるとのことです。今回は課徴金の取消しについて判例から見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、事業者向け電力の販売をめぐり九州電力、中部電力、中国電力が2018年に関西電力とカルテルを結び顧客を奪い合わないよう申し合わせていたとされます。大規模な工場向やビル向けの特別高圧や中小事業所向けの高圧電力について互いの営業エリアで顧客を獲得しないというものとのことです。公取委は独禁法が規制する不当な取引制限に当たるとして排除措置命令と総額1000億円を超える課徴金納付命令を出しました。これに対し九州電力は、カルテルを結ぶ意思をもって対応した事実はなく、カルテルの合意はなかったとして公取委の処分の取消しを求め東京地裁に提訴すると発表しました。中部電力、中国電力も同様に提訴の意向を示しているとされます。

 

独禁法違反事件手続きと不服

 公取委が独禁法違反の疑いがある事実を把握すると調査手続きに入ります(独禁法45条2項、47条1項)。ここで確約手続に入ることもありますが、排除措置命令、課徴金納付命令を出す場合、対象の事業者に対して事前通知がなされ意見聴取手続きに移行します(49条、50条、62条)。意見聴取手続きでは予定される処分の内容や認定した事実とそれに適用される法令、公取委の認定した証拠などが通知され、対象事業者からの意見や証拠提出などを経て意見聴取調書などが作成され議決されることとなります(60条)。排除措置命令、課徴金納付命令が出された場合、処分の取消しを求め提訴することが可能です。なお独禁法の平成25年改正(27年4月1日施行)以前は公取委が主宰する審判手続による不服申し立て手続きがありましたが現行法では廃止されております。

 

処分の取消訴訟

 公取委により排除措置命令や課徴金納付命令が出された場合、その処分があったことを知った日から6ヶ月以内、または処分があった日から1年以内に取消しを求め提訴することができます(行政事件訴訟法14条1項、2項)。この訴訟での被告は国ではなく公取委となっており(独禁法77条)、裁判管轄は東京地裁の専属管轄となっております(85条)。この取消訴訟では裁判所は公取委の判断に拘束されずに処分の当否を判断することとなりますが、行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲を超えまたは濫用があった場合に限り裁判所は処分を取り消すことができるとされております(行訴30条)。そのため余程の場合でないと認容判決が出ないと言えます。

 

課徴金納付命令に関する判例

 損害保険事業者団体が営業保険料率に関してカルテルを結んでいた事例で、課徴金の算定基礎として営業保険料から保険金や純保険料を控除すべきとして課徴金一部取消しを求めた訴訟で最高裁は、課徴金制度をカルテル禁止の実効性確保のため行政庁に機動的に発動できるようにしたものとし、算定基準も明確なものである必要があるとして、算定に実際にカルテル行為で得られた額と一致しなければならないものではないとしました(最判平成17年9月13日)。また空気から酸素や窒素、アルゴンを分離したエアセパレートガスの販売価格で「エア・ウォーター」がカルテルを結んでいた事例で、課徴金率が2%となる卸売業か10%となる小売業等かが争われた訴訟で東京高裁は、両方に該当する事業活動が行われていると認められる場合は、実行期間における違反行為の係る取引において過半を占めている方の業種によるべきとしました。公取委はエア・ウォーターが他社と共同出資していたガス製造会社を実質的に支配していたとして卸売業ではなく製造業とし10%を適用しましたが、東京高裁はエア・ウォーターの持ち株比率や同社への関与は低く支配していたとは言えないとして2%を適用し、課徴金の一部を取消しました(東京高裁平成26年9月26日)。

 

コメント

 本件で九州電力は、カルテルを結ぶ意思をもって対応した事実はなく、カルテルの合意はなかったとして公取委と見解の相違があったとしております。課徴金納付命令は今年3月30日に出されており、提訴期間満了も迫っていることから近日中に提訴されるものと予想されます。以上のように公取委による排除措置命令や課徴金納付命令に不服がある場合は東京地裁に取消訴訟を提訴することができます。上記のように課徴金は罰金や損害賠償とことなり行政上のペナルティとして明確な基準で算定されることからかなりの高額なものになります。そのため課徴金納付命令を受けた企業は株主から厳しい責任追及がなされることが多いと言えます。それを受け課徴金自体の取消しを求め提訴することも近年多くなっております。しかし課徴金の取消し(一部)を認めた例は近年では1件しかなく、ほとんどが退けられているのが実情です。公取委による課徴金が出される事態に陥る前に、違反行為が発生しないよう社内で啓発していくことが重要と言えるでしょう。

 

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