ビッグモーター問題で金融庁が損保各社に報告徴求命令
2023/08/01 コンプライアンス, 行政対応, 保険業法, 金融・証券・保険

はじめに
ビッグモーターの保険金不正請求を巡り、金融庁が損保各社に報告徴求命令を出していたことがわかりました。損保ジャパンや東京海上日動など大手4社のほか中堅損保やビッグモーターも対象とのことです。今回は保険業法などに基づく行政処分の手続きについて見ていきます。

事案の概要
ビッグモーターは2021年秋ごろの損保会社業界団体への内部告発をきっかけに、これまで東京海上日動火災保険や損保ジャパンなど損保会社に対して保険金の不正請求を行っていたことが発覚しました。同社特別調査委員会の報告では、壊れていないヘッドライトカバーを故意に割ったり、ドライバーで車体をひっかく、ゴルフボールを入れた靴下で車体を叩くなどして破損箇所を増やし、保険金の水増し請求を行っていたとのことです。また同社では実際には締結していない架空の保険契約の捏造や店舗前の街路樹を故意に枯らしていたなどの新たな疑惑も発覚しており、各自治体などが調査を行っております。そんな中金融庁は損保各社とビッグモーターに対し、保険業法に基づいて報告徴求命令を出しました。
報告徴求命令とは
保険業法128条1項によりますと、「内閣総理大臣は、保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは、保険会社に対し、その業務又は財産の状況に関し報告又は資料の提出を求めることができる」としております。また当該保険会社の子会社等や業務委託を受けている者に対しても同様に報告を求めることができます(同2項)。ただしこの子会社等や業務委託を受けている者については正当な理由がある場合は報告や資料提出を拒否することができるとされます(同3項)。これがいわゆる報告徴求命令です。なお内閣総理大臣は保険業法に基づく権限を金融庁長官に委任することができ、金融庁長官はさらに財務局長や財務支局長に委任することができます(313条1項、2項)。この報告徴求命令に対して報告や資料提出をしない、または虚偽の報告や資料を提出した場合は罰則として1年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されております(317条2号)。
保険業法のその他の処分
保険業法では上記報告徴求命令以外にも保険会社の健全な業務運営と保険契約者の保護を図るため、必要に応じて次の処分が可能です。まず金融庁は必要があると認めるときは、職員を保険会社の営業所、事務所その他の施設に立ち入らせて業務や財産状況等に関して質問させたり帳簿書類その他の物件を検査させることができます(129条1項)。これは保険会社の子会社等や業務委託を受けた者に対しても可能ですが、正当理由がある場合は拒否できます(同2項、3項)。金融庁はそれらの調査を経て必要があると認める場合は業務改善命令や業務の全部または一部の停止命令を出すことができます(132条1項)。さらに(1)法令や法令に基づく書類に定めた事項のうち特に重要なものに違反した場合、(2)当該免許に付された条件に違反した場合、(3)公益を害する行為をした場合には免許を取り消すことができます(133条)。
行政処分の流れ
金融庁のHPによりますと、上記行政処分(不利益処分)を行う場合の事務的な流れについては以下のとおりとされております。
(1)報告徴求
まずヒアリングや不祥事件届出書、立入検査などを通じて保険会社のリスク管理体制や法令遵守耐性、ガバナンスなどに問題が認められる場合、報告徴求命令を出します。その結果さらに精査する必要がある場合はさらに追加報告を求めます。
(2)対応策のフォローアップ
報告を検証した結果、重大な問題が発生しておらず、自主的な改善への取組を求めることが可能な場合は任意のヒアリング等を通じて対応策のフォローアップを行います。必要があれば定期的なフォローアップを求めるとされます。
(3)業務改善命令
報告を検証した結果、重大な問題が認められる場合または自主的な取組では改善が図られないと認められる場合は業務改善計画の提出とその実行を命じることとなります。
(4)業務停止命令・免許取り消し
業務の改善に一定期間を要し、その間は業務改善に専念させる必要があると認められる場合、または重大な法令等の違反、公益を害する行為などに対しては業務の全部または一部の業務停止を命じることとなります。重大な違反や公益侵害が多数認められるなど今後の業務継続が不適当と認められる場合は免許が取り消される場合があります。
コメント
本件で特に損保ジャパンに関しては多数の社員をビッグモーターに出向させており、出向させた社員から不正請求に関する情報を得ていながら取引を再開させたとの疑いがもたれております。金融庁のHPでは事案の重大性・悪質性については多数の利用者が広範囲に渡って被害を受けたか、被害の深刻さ、多数の苦情を受けているにもかかわらず行為を続けたかなどの反復性や期間、故意性、組織性、隠蔽の有無などを考慮するとされます。また損保ジャパンについては以前にも保険金不払いや保険証券の二重発行などで業務停止命令を受けており、今回はより重い処分が出される可能性も考えられます。今回は保険業法にスポットを当てて見てきましたが、同様の規定は各種業界法にも存在しており、ほぼ同様の流れと言えます。今一度社内の体制について見直し、周知・啓発していくことが重要と言えるでしょう。
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