東京ディズニーランドのパワハラ訴訟、オリエンタルランドが二審で勝訴
2023/06/30 労務法務, 労働法全般, エンターテイメント
はじめに
東京ディズニーランドの女性従業員が上司や同僚からパワハラを受けたなどとして運営会社の株式会社オリエンタルランドに損害賠償を求めた訴訟で、6月28日、東京高等裁判所は、女性従業員側の請求を棄却しました。一審では女性従業員側の請求が認められており、逆転敗訴という結果になりました。
事案の概要
“夢の国”として日本・世界中のディズニーファンを魅了する東京ディズニーランド。その中で展開されるキャラクターショーは、訪れる来園客のお目当ての一つとなっています。
報道などによりますと、東京ディズニーランドでキャラクターショーに出演していた女性従業員が、2013年2月、パーク内で着ぐるみを着用して来園客と接していた際、客から指を折り曲げられ、捻挫。女性従業員は労災申請を行うべく、上司に相談したものの「我慢しなくちゃ」と言われたとされています。
加えて、2013年から2018年にかけて、上司や同僚合わせて12人から「病気なのか。それなら死んじまえ」と言われるなど、職場で孤立して精神的苦痛を受けたと主張しています。
こうした状況を受けて、女性従業員は、「上司・同僚による繰り返しの暴言によるパワーハラスメントや集団的ないじめを受けたにも関わらず、会社は職場環境の改善の求めに応じず放置した」として、運営会社のオリエンタルランドに対し330万円の損害賠償を求めて千葉地方裁判所に提訴していました。
2022年3月の一審判決では、女性従業員がパワハラと主張した発言の不法行為性は否定されました。一方で、キャラクターショーのキャスト同士が潜在的な競争関係にあり、軋轢を生みやすい仕事である点を指摘。女性従業員が職場で孤立しないよう職場環境を調整する義務があったとして、オリエンタルランドの安全配慮義務違反を認定し、88万円の支払いを命じました。
オリエンタルランド側は、一審の判決を不服として東京高裁に控訴。今回の判決に至りました。
判決では、女性従業員側のパワハラやいじめの主張に関し、客観的証拠と整合せず、前提となる事実を欠くなど信用性に欠けると指摘、上司らによるパワハラやいじめの事実は認められないとしました。
さらに、職場での孤立に関しても、女性従業員が「孤立している」と会社に相談した形跡は見当たらず、むしろ女性の状況に理解を示す同僚も相当程度存在していたことを重要視。女性従業員が職場で孤立していたと認められるかは疑問が残るとし、会社側に“孤立しないよう職場環境を調整する義務の違反”があったか判断することはできないとして女性側の請求が棄却しました。
女性従業員側は、今後、上告するかどうか検討していくとしています。
パワハラ該当例は?
今回の判決では、事実認定(事実の有無)がキーとなったように見られますが、他のケースでは、特定の言動がパワハラに該当するか否かで争われることが少なくありません。では、パワハラか否かの線引きはどこにあるのでしょうか?
パワハラには様々な類型がありますが、6つの代表的な類型を例に、それぞれパワハラと認められるケース(認)、認められないケース(否)をご紹介します。
※いずれも、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提となっています。
■身体的な攻撃(暴行・傷害)
認:殴打、足蹴りを行う
否:誤ってぶつかる
■精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
認:能力を否定し、罵倒するような内容のメール等を当該相手を含むチーム全体に送信する
否:遅刻などが見られ、再三注意しても改善されない労働者に一定程度強く注意をする
■人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
認:自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離するなどする
否:新規採用の労働者育成を目的として、短期間集中的に別室で研修などを行う
■過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
認:新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
否:労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
■過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
認:気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
否:労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
■個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
認:労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
否:労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
【参考】職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!(厚生労働省)
コメント
一審からの逆転敗訴を受け、女性従業員側は、「救いの手を払われた思いで、悲しく受け入れられない」と述べていました。今後、最高裁で争う道もありますが、まず、上告が認められるかという点でハードルがあります。また、上告審では下級審の事実認定を変更せずに法適用の判断が行われることになるため、その点もネックとなりそうです。
今回、オリエンタルランド側は勝訴する形になりましたが、勝敗に関わらず、従業員からパワハラを理由に訴えられ、年単位で裁判で争うことは企業側として避けたいところです。法務としても、職種・取引先の態様などから、「従業員同士の軋轢を生みやすい職場」をある程度特定し、メリハリをつけたパワハラ対策を実施する必要があるかもしれません。
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