IRジャパンが委員を増員へ、監査等委員会設置会社について
2023/06/20   商事法務, 会社法

はじめに

 コンサルティング会社「IRジャパンホールディングス」(千代田区)の元副社長が金商法違反で起訴されたことを受け、同社は監査等委員を1人増員すると発表しました。再発防止と監査・監督機能を強化するとのことです。今回は監査等委員会設置会社について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、IRジャパンの元副社長栗尾拓滋容疑者(56)は2021年3月、同社の連結売上高予想が前年秋から約14億円減少することを知り、公表前の同年4月に損失を回避させる目的で知人女性2人に保有する同社株を売却することを推奨したとされます。これにより女性2人は同社の売上高下方修正が公表される前に計約1万1000株(約1億8000万円)を売り抜けたとのことです。栗尾容疑者の起訴や第三者委員会からの指摘などを受け、同社は監査等委員を1人増員する旨決定し、16日に開かれた定時株主総会で承認可決されました。同社は取締役7人(監査等委員3人)から1人増えることとなります。

 

監査等委員会設置会社とは

 日本では従来の監査役会設置会社よりも迅速な意思決定や業務執行と監督機能の分離によるガバナンスの強化などを図ることを目的に、2003年に指名委員会等設置会社(当時の委員会設置会社)が導入されました。これはもともと米国などの制度で欧米では投資家からの信頼性も高い機関設計と言われております。しかしこの制度では3委員会それぞれ構成員が最低3人、その過半数が社外取締役でなければならないなど役員の数が多くなりがちで会社にとって負担の大きい機関設計となっておりました。そこで2014年の会社法改正により監査等委員会設置会社の制度が導入されることとなりました。指名委員会等設置会社よりも機関設計が軽く、柔軟で会社の負担も軽減されたものとなっております。なお委員会設置会社はこの時点で現在の指名委員会等設置会社に名称が改められました。

 

監査等委員会設置会社の機関設計

 監査等委員会設置会社は取締役会、監査等委員会、会計監査人の設置が必須となります(会社法327条1項、5項)。監査等委員会を構成する監査等委員は3人以上必要で、その過半数は社外取締役である必要があります(331条6項)。監査等委員も取締役ですが、その選任は株主総会の普通決議により、通常の取締役とは区別して選任することとなります(329条2項)。取締役会は通常の取締役と監査等委員である取締役で構成されますが、監査等委員である取締役ではない業務執行取締役が代表取締役になるため、取締役の人数は最低4人必要ということとなります。監査等委員会設置会社は当然のことながら監査役や監査役会を設置することはできません。また監査等委員会設置会社に移行する際には、従前の取締役や会計参与は一旦任期満了で退任することとなります。移行後も続投する場合でも一旦退任し、重任するという扱いとなります。

 

指名委員会等設置会社

 ここで指名委員会等設置会社についても触れておきます。指名委員会等設置会社も監査等委員会設置会社と同様に取締役会、各委員会、会計監査人が基本の機関構成となります。委員会は指名委員会、監査委員会、報酬委員会に分かれており、各委員会の委員は取締役会で取締役の中から選任されます(400条2項)。各委員会は最低3人必要で、やはり過半数は社外取締役である必要があります(同3項)。また取締役会は会社の業務執行を行う執行役、代表執行役を選任します(402条1項、420条1項)。各委員会の委員は兼任することが可能であることから、理屈の上では全委員会の委員を3人が兼任し、執行役1人とすれば会計監査人と合わせて5人で構成することができます。しかし実際にはこのように最小人数で構成することは現実的ではなく、監査等委員会設置会社よりも多くの役員が必要となってきます。

 

コメント

 本件でIRジャパンは一連の不祥事や第三者委員会からの指摘を受けて監査等委員である取締役を現行の3人から4人に増員するとしました。監査等委員会は上記のように過半数は社外取締役である必要があることから、人数が4人になればそのうち3人は社外取締役である必要があります。しかし同社では従来から監査等委員3名全員が社外取締役であったことから社外取締役ではない取締役が就任することが可能であり、そのように選任決議がなされております。以上のように監査等委員会設置会社は従来の監査役会設置会社に比べ特殊な機関設計となっております。しかし3委員会の設置が必須となる指名委員会等設置会社に比べコンパクトで機動性のある構成が可能となっており、ガバナンスの強化と投資家からの信頼を確保しやすいものと言えます。それぞれの機関設計のメリット・デメリットを把握しつつ、自社に適切なものを選択していくことが重要と言えるでしょう。

 

シェアする

  • はてなブックマークに追加
  • LINEで送る
  • 資質タイプ×業務フィールドチェック
  • TKC
  • 法務人材の紹介 経験者・法科大学院修了生
  • 法務人材の派遣 登録者多数/高い法的素養

新着情報

公式メールマガジン

企業法務ナビでは、不定期に法務に関する有益な情報(最新の法律情報、研修、交流会(MSサロン)の開催)をお届けするメールマガジンを配信しています。

申込は、こちらのボタンから。

メルマガ会員登録

公式SNS

企業法務ナビでは各種SNSでも
法務ニュースの新着情報をお届けしております。

企業法務ナビの課題別ソリューション

企業法務人手不足を解消したい!

2007年創業以来、法務経験者・法科大学院修了生など
企業法務に特化した人材紹介・派遣を行っております。

業務を効率化したい!

企業法務業務を効率化したい!

契約法務、翻訳等、法務部門に関連する業務を
効率化するリーガルテック商材や、
アウトソーシングサービス等をご紹介しています。

企業法務の業務を効率化

公式メールマガジン

企業法務ナビでは、不定期に法務に関する有益な情報(最新の法律情報、研修、交流会(MSサロン)の開催)をお届けするメールマガジンを配信しています。

申込は、こちらのボタンから。

メルマガ会員登録

公式SNS

企業法務ナビでは各種SNSでも
法務ニュースの新着情報をお届けしております。

企業法務ナビに興味を持たれた法人様へ

企業法務ナビを活用して顧客開拓をされたい企業、弁護士の方はこちらからお問い合わせください。