住宅販売会社代表が破産直前に契約で逮捕、倒産関連犯罪について
2023/05/23   債権回収・与信管理, 倒産法, 破産法

はじめに


破産直前で住宅建築が不可能であるにもかかわらず、顧客から契約金50万円をだまし取ったとして、愛知県警は10日、詐欺容疑で住宅販売会社「アポロホーム」(愛知県尾張旭市)の代表を逮捕しました。認否は不明とのことです。今回は倒産に関しる犯罪を見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、アポロホーム代表永指秀明容疑者(44)は2021年9月18~21日、同社事務所で、愛知県知立市の女性会社員(28)に、債務超過状態で住宅を建てられないと知りながら、「建築工事の総額は1000万円で、来月から土地工事が始まる」などと虚偽の説明をして契約金50万円を振り込ませた疑いがあるとされます。同社は同年9月30日に破産申立を弁護士に依頼し、11月に名古屋地裁から破産手続き開始決定を受けたとのことです。同社は2018年頃から取引先への支払いが滞るようになり、最終的な負債総額約7億円にのぼっているとされます。

 

倒産と詐欺罪

 会社の経営状況が悪化し、債務超過状態となり、経営努力の甲斐なく倒産に至ることは珍しくありません。その際、債務超過状態にあることを認識していながら返済する資力や意思がないにもかかわず資力があるように装って金融機関などから借り入れたり、履行不能であるにもかかわらず新規に契約を締結した場合、詐欺罪(刑法246条)が成立することがあります。またそもそも金銭や資材等を騙し取る目的で大量の契約を締結しつつ倒産してしまうといった場合も同様です。刑法246条1項によりますと、「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」とされております。欺罔行為によって人を錯誤に陥らせ、それにより財物を交付させることが要件となります。またそれら一連の行為について故意が必要です。詐欺罪は未遂も処罰され(250条)、騙し取った財物は没収され国庫に帰属することとなります(19条)。

 

詐欺破産罪

 債務者が破産手続開始前後を問わず、債務者の財産を隠匿や損壊したり、譲渡、債務負担を仮装したりする行為は破産詐欺罪に該当します(破産法265条1項)。破産手続きでは債務者の財産を少しでも多く、公平に債権者に分配することを目的とされますが、このような行為は裁判所の分配手続きを妨害することとなります。対象となる行為はこれら以外にも債務者の財産を債権者の不利益になるよう処分したり、不利益な債務を新たに負担する行為、また財産の現状を変更してその価値を下落させるといった行為も含まれます。違反した場合は1月以上10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。また法人に対しても1000万円以下の罰金がかされることとなります(277条)。

 

その他の破産犯罪

 破産法では上記詐欺破産罪以外にも犯罪が規定されております。支払不能となった後にその事を知っている特定の債権者にだけ弁済したり担保を提供する行為を偏頗行為と言い、否認権の対象となります(162条)。さらに他の債権者を害する目的でこれらの行為を行った場合は罰則として5年以下の懲役、500万円以下の懲役またはこれらの併科となっております(266条)。それ以外にも重要財産開示拒否(269条)や、業務・財産状況に関する物件隠匿(270条)、説明・検査の拒絶(268条)などが挙げられます。また破産管財人に対する職務妨害(272条)や破産管財人等への贈賄(274条1項)といったものも規定されております。

 

コメント

 本件でアポロホームは土地代金に建物代金の一部を含めることで消費税を節税できるとうたい顧客を集めていたものの、2018年頃から取引先への支払いが滞り、2021年11月に破産手続開始決定を受けております。そのような状況で同年9月に、もはや住宅を建てられないと知りながら顧客に代金50万円を支払わせた疑いが持たれております。これらが事実である場合、上記のように詐欺罪に該当する可能性が高いと言えます。以上のように会社が債務超過状態にある場合、それを隠匿しての新規契約や借り入れは詐欺となることがあります。また破産前後における財産隠匿や特定の債権者への弁済・担保供与なども破産法に違反する危険があると言えます。債務超過に陥った際にはこれらの事を踏まえ、取引先や債権者に極力損害が生じないよう慎重に経営再建を図っていくことが重要と言えるでしょう。

 

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