東京地裁で「大広」元執行役員の初公判、「みなし公務員」とは
2023/04/19 コンプライアンス, 刑事法
はじめに
東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、大会組織委員会元理事の高橋被告に対する贈賄罪に問われた大手広告代理店「大広」元執行役員、谷口被告の初公判が17日、東京地裁で開かれました。贈賄の認識はなかったとのことです。今回は「みなし公務員」と贈賄罪について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、大会組織委員会元理事であった高橋被告は2018年に大会スポンサーとなった「AOKI」から、大会スポンサー契約などを巡って便宜を図るよう依頼を受け、その見返りに現金5100万円を受け取った疑いが持たれており、受託収賄罪の容疑で起訴されております。また広告大手の「大広」元執行役員谷口被告も同社が語学サービス企業のスポンサー契約業務を担うことなどについて高橋被告に働きかけを依頼し、その見返りとして高橋被告の知人が経営していたコンサルタント会社の口座に計約653万円を振り込んだとのことです。弁護側は、大広が協力店となったのは理事がみなし公務員となる以前のことで資金提供に対価性はないとしております。
収賄罪とは
一般に公務員が金品などの提供を受けた場合、収賄罪に該当することとなります。これは公務の公正性や公務員の職務行為に対する国民の信頼を確保することが趣旨とされます。収賄罪は、単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪、加重収賄罪、事後収賄罪、あっせん収賄罪など多岐にわたります(刑法197条~197条の4)。公務員がその職務に関し、賄賂を収受し、またはその要求、約束をした場合は単純収賄罪として5年以下の懲役となっております。公務員が請託を受けていた場合は受託収賄として7年以下の懲役となります。公務員になろうとする者がその担当すべき職務に関し請託を受けて賄賂を収受し、その後公務員となった場合は事前収賄となります。第三者に賄賂を供与させた場合は第三者供賄罪、請託を受けて他の公務員に不正な行為をさせるようあっせんした場合はあっせん収賄となります。
贈賄罪とは
上記の197条~197条の4に規定する賄賂を供与し、または申込み、もしくは約束をした者は3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処するとされます(198条)。収賄罪の主体は公務員等ですが、渡す側の贈賄罪はその主体には特に制限はありません。またここに言う「賄賂」とは、金銭に限らず、有形無形を問わず人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含むとされております(大審院明治43年12月19日)。上場時には価格が確実に上昇すると見込まれ、一般には取得が極めて困難な株式を公開価格で取得できる利益もそれ自体が賄賂に該当するとされた判例もあります(最決昭和63年7月18日)。およそあらゆる利益が賄賂に当たりうるということです。
みなし公務員とは
上でも述べたように収賄罪の主体は公務員となっております。刑法7条1項によりますと、公務員とは「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」とされております。またこれ以外にも、法律によって公務員とみなされる場合があります。本件の「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」28条では、組織委員会の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなすとされております。これ以外にも日本郵便の従業員、国立大学の職員、日銀の職員、道路公団の職員、住宅金融公庫の職員などが法令でみなし公務員とされております。
コメント
本件で検察側によりますと、谷口被告は高橋被告から大会組織委員会の理事への就任見込みを2014年1月までに知らされ協力への見返りに大広が得る手数料の折半を持ちかけられて快諾したとされます。五輪特措法では組織委員会の理事はみなし公務員とされておりますが、谷口被告は高橋被告からそのような説明はなく、贈賄罪の対象者との認識はなかったとしております。以上のように贈賄罪の対象である公務員の範囲は一般に考えられているよりも広く、贈賄時に公務員に当たるとは思っていなかった場合が多いと言えます。刑法での贈賄罪以外にも、会社法や不正競争防止法の外国公務員に対する贈賄罪も規定されております。どのような場合に贈賄罪になるかを今一度確認し周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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