かんぽ不正販売を理由とした日本郵便の局員解雇は無効/札幌地裁
2023/03/17   金融法務, コンプライアンス, 保険業法

はじめに


かんぽ生命の保険商品の不正販売に関与していたことを理由に日本郵便を懲戒解雇された元社員が「懲戒解雇処分は無効」だとして、社員としての地位確認および解雇後の賃金の支払いを求めていた裁判で、3月14日、札幌地方裁判所は元社員らの訴えを認める判決を下しました。解雇は無効とされ、日本郵便に対し、未払い賃金などあわせておよそ2300万円の支払いを命じています。日本郵便が、かんぽ生命不正販売問題に関連して行った解雇を無効とする判決は、昨年12月の判決(同じく札幌地裁)に続き、2例目です。
 

かんぽ保険不正販売問題


2019年、日本郵便の社員が販売していたかんぽ生命の保険商品に関し、不適正な募集行為があったとして問題となりました。具体的には、

(1)契約の乗換に際し、「一定期間解約はできない」「病歴の告知があっても加入可能」などの事実と異なる説明
(2)契約の乗換に際し、「自分の営業成績のために解約を遅らせてほしい」などの依頼

といった不適正な募集行為を行い、契約の重複による二重払いや無保険期間の発生等の不利益を顧客に生じさせたとされています。

その他にも、顧客の意向に沿わない、多数回にわたっての契約の消滅・新規締結の繰り返しや、高額の保険料を伴う多額の契約の締結なども多数認められたと言います。こうした不正契約は、2020年3月時点で18万件以上も発覚しており、中には詐欺罪に該当するような悪質な事案もあったと言われています。

金融庁は、これを問題視し、2019年12月27日、株式会社かんぽ生命保険・日本郵便株式会社・日本郵政株式会社(前2社の親会社)の3社に対し、業務停止命令や業務改善命令等の行政処分(保険業法第132条第1項、第307条第1項、第306条、第271条の29第1項)を行っています。

日本郵政グループに対する行政処分について(金融庁)

かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会が提出した調査報告書によると、問題が起きた背景には、
・厳格な指導の回避
・営業インセンティブ等による高い収入を得ることへの意識
・チームの他のメンバーのインセンティブに悪影響を与えたくないという考え

などから、営業目標達成への重圧が過度にかかってしまったことがあると言います。

その結果、旧保険の契約期間の引き伸ばしや、解約から契約まで一定の間を開けると社内ルール上新規扱いになるという点を利用して、顧客の意向・利益に反し、ノルマを達成しようとしたとされています。

この不正販売問題が発覚して以降、日本郵便は営業体制を見直し、新契約の獲得に偏っていた営業成績の評価方法を見直したほか、不正販売問題に関与したとして社員ら3300人余りを懲戒解雇や停職などに処しています。

その中で、最も重い処分である「懲戒解雇」となったのは現状28人。そのうち6人が札幌の他、水戸や金沢で、解雇の無効を訴え、訴訟を提起していました。

そして今回、昨年12月の札幌地裁での解雇無効を認める判決に続き、元社員側の訴えが認められる判決が下されました。

 

解雇無効と判断された理由


今回の訴訟の原告となった元社員2名は、2020年8月から9月にかけて、顧客の意向の十分な把握を怠って、乗り換え契約(既存の保険契約を解約して同種の新規契約を締結)などを数十件受け付けたとして、日本郵便より懲戒解雇されていました。

しかし、判決では、原告2名は、日本郵便が定める手続きに沿って顧客に意向確認を行っていたと認定。さらに、顧客側も乗り換え契約によって「解約損」が生じることを理解していたと指摘しました。

そのため、原告2名に違反行為はなく、解雇は無効としています。

なお、同じく解雇無効との判決が下された昨年12月の判決でも、元社員は、当時求められていた水準の意向確認と乗り換えに伴う不利益の説明を実行していたと認定し、懲戒解雇の理由は存在しないと結論づけています。

 

コメント


原告代理人を務める弁護士は判決後の会見で、「日本郵便は、社会的な批判をかわすために義務違反をしていない職員に極めて重い処分を下した」と厳しく糾弾したといいます。

社内でコンプライアンス違反が発覚した場合、その原因が、会社の体制・風土にあるのか、それとも、違反に関わった個人の資質にあるのか、実際のところ、その判断は非常に難しいところです。

そんな中、懲戒解雇は、ある意味、個人の資質にコンプライアンス違反の原因を求めるものといえますが、懲戒解雇が社員および社員の家族の人生・キャリアに与える影響は甚大です。それだけに、懲戒解雇後の紛争リスクは、かなり高いものとなります。やはり、コンプライアンス違反事案に対しては、安易に個人の資質の問題と結論づけることは避けるべきだと思います。

懲戒解雇の判断における、正確な事実確認と慎重に慎重を重ねた検討の重要性を痛感する事例となりました。

 

【参考リンク】
かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会(報告書)

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