健康食品会社社長ら、無届けでの未公開株勧誘で逮捕
2023/03/10   金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに

 無届けで未公開株購入を勧誘していたとして、警視庁生活経済課は9日までに健康食品販売会社の社長ら2人を逮捕していたことがわかりました。約80億円を集めていたとのことです。今回は金商法の有価証券届出書について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、健康食品販売会社「ウィンメディックス」社長ら2人は2017年3月~22年4月に、がんの治療効果が見込める商品を開発しているなどとうたって、がん治療に期待する患者やその家族らに未公開株を購入させていたとされます。逮捕容疑は2021年12月に都内のイベント会場で開かれた臨時株主総会で参加した約200人に勧誘した疑いとのことです。販売に際して「1株1000円だが、95%引きの50円で販売する」としていたとされ、全国の約1万5000人から約80億円を集めていたとみられております。

 

金商法のディスクロージャー制度

 金商法では、有価証券の発行や市場流通において、一般投資家が十分に投資判断を行うことができるような資料を提供するため、有価証券届出書、有価証券報告書などの各種開示書類を有価証券の発行者に義務付け、これらを公衆縦覧に供することにより、発行者の事業内容、財務内容等を正確、公平に開示して投資者の保護を図ろうとしております。これに違反して届出を行わなかった場合には、罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(197条の2第1号)。このように会社等が株式や社債などを発行する際には、一定の場合、有価証届出書の届出義務が発生すると言えます。届出ずに行われた有価証券の発行は、場合によっては無効となる可能性もあると言われております。

 

有価証券の募集

 金商法では、新たに株式や社債などの有価証券を発行し、募集する場合、その発行価額の総額が1000万円超から1億円未満であれば有価証券通知書を、1億円以上である場合は有価証券届出書を提出する必要があるとされております(4条1項、2項、6項)。ここに言う「募集」とは、50人以上の者を相手として、有価証券の取得の申込みを勧誘する場合を言うとされます。この50人というのは、50人が有価証券を取得すると言う意味ではなく、あくまでも勧誘した相手の人数です。最終的に1人しか取得しなかったとしても、声をかけたのが50人以上であれば適用されます。また勧誘人数が50人未満であっても、6ヶ月間の通算で50人以上となる場合は同様です。また発行価額の総額が1億円未満でも、1年間の通算が1億円以上となる場合もやはり対象となります。

 

無届募集に関するガイドライン

 金融庁のガイドライン(企業内容等開示ガイドライン)によりますと、無届募集を行っていることが判明した場合、無届募集にいたった原因に故意性・悪意性がなく、投資者保護の観点から問題のある発行者ではない場合には直ちに有価証券届出書の提出を求めるとしております。しかし故意性・悪意性があると認められた場合、その他投資者保護上必要と認められる場合には捜査当局に連絡するとともに、文書により警告を行うとされております。警告を発したにもかかわらず是正しない者については、必要に応じて捜査当局に告発を行うとされ、警告・告発を行ったときはその対象となっている者の商号・名称、所在地、代表者の氏名等を公表するとされております。

 

コメント

 警視庁生活経済課によりますと、本件で社長らは講演会などを通じて、“コロイド化ヨウ素”と呼ばれるがん治療の新薬開発をうたい、「医薬品として承認されれば高額な配当金が支払われる」として新株の購入を呼びかけていたとされます。少なくとも約80億円の売上があったとされ、そのうち1割程度は社長の遊興費などに使われたとみられています。社長らは「勧誘したつもりはない」として、容疑を否認しているとのことです。以上のように金商法では一定の要件を満たす新株などの発行には届出を義務付けています。これは証券取引所に上場していない会社も全て対象となっています。単に届出を失念していた場合や、規定の存在を知らなかった場合等、悪意性がない場合は届出を促されるだけとなりますが、悪意性があった場合は公表や告発となります。募集株式発行の際には、会社法上の手続だけでなく金商法にも留意して準備しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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