スシロー、高校生による迷惑動画事件の現状と防止策を公表
2023/02/06   危機管理, 民法・商法, 刑事法

はじめに


大手開店寿司店「スシロー」で撮影された迷惑動画がSNSを中心に拡散され、議論となっています。映像に映るのは、高校生の少年。醤油のボトルや湯飲みをなめたり、口に入れたあとの指で寿司を突くも、そのまま皿を取らないといったものでした。いたずらでは済まされない行為に企業側も被害届を提出しています。
株式会社あきんどスシローは、2月1日、この迷惑動画事件の現状と防止策を公表しました。
 

スシロー、迷惑動画事件の経緯


スシローの発表によりますと、動画が撮影されたのは岐阜市内の店舗で、動画の内容を受けて、1月30日の開店前に全ての湯飲みの洗浄と、しょうゆボトルの入れ替えを行ったということです。
迷惑動画の撮影された店舗とその近隣店舗においては、食器類、調味料等の置き場を店内に設置し、客自身で取り、テーブルまで持っていくよう対応を変更しているほか、今後はテーブル席と提供レーンの間に一部アクリル板の設置を早急に実施するとしています。
また、全国的にも運営方法を一時的に変更するとしていて、メニューを完全注文制に切り替えるということです。

今回の迷惑動画拡散後、株価がおよそ160億円以上下落。迷惑行為をした少年とその保護者からは1月31日に謝罪を受けたということですが、警察に提出した被害届は取り下げず、引き続き刑事・民事の両面で厳正に対処するとしています。

SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ(あきんどスシロー)

 

相次ぐ客による迷惑動画


スシロー以外でも、飲食店などで撮影された迷惑動画が物議を醸しています。

カラオケチェーン“カラオケまねきねこ”の運営会社、株式会社コダシカは2月3日、2つの迷惑動画が認められた件につき、今後の対応を公表しています。

動画の1つ目は、群馬県内の店舗で客がマイクを除菌するスプレー缶の吹き出し口にライターを近づけて引火させるといった動画が撮影されていたもの。
「一歩間違えば大事故に繋がる危険行為であると判断し、弊社としては刑事および民事の両面で厳正に対処いたします。」と発表しています。

また、埼玉県内の店舗では客がソフトクリームを機械から直接、口に入れる様子が撮影されていました。当該店舗でのソフトクリームの使用は一旦中止し、点検および洗浄を実施。また、全国600近くのすべての店で当該機器の洗浄を行い、衛生管理を徹底するよう通達したということです。こちらの動画についても警察にすでに相談をしているということです。

株式会社コシダカ SNSで拡散されている迷惑行為に関するお知らせ

また、北九州を中心に展開する「資さんうどん」でも、客席にある無料サービスの天かすを、共用のスプーンで食べる客の動画が拡散。当該店舗では、天かすなどの無料サービスの食材を入れ替え、容器も消毒したということです。

 

迷惑動画での損害賠償は?


次から次へと止まらない、迷惑動画。こうした事態に自社が巻き込まれた場合、どのくらいの損害賠償が可能となるのでしょうか。

基本的には、業務妨害を根拠に損害賠償を請求することとなります。業務妨害における損害は、(1)無形損害(≒名誉・信用毀損による損害)、(2)営業損害に大別されますが、(1)の無形損害は、名誉棄損事案でこそ数百万円の支払いが命じられた判例(東京高等裁判所1994年9月7日判決、東京地方裁判所1994年11月11日判決等)がありますが、数十万円の認定に留まる事例も少なくないとされています。

 

一方、(2)の営業損害については、業務妨害への対応に要した費用と業務妨害がなければ本来得られたはずの利益(逸失利益)を中心に考えることになります。

今回の迷惑動画事件の場合、

①動画により客足が遠のいたことによる売上減少
②迷惑行為防止対策を施した設備の導入費用(新型の寿司レーン等)
③株価下落による損害
④湯呑み・しょうゆボトル・寿司レーンの清掃費用、各種備え付け品の廃棄交換費用
⑤一連の対応を行ったことの広報費用

などが営業損害として請求可能なのではとされています。

もっとも、①の売上減少分については、件の高校生の行為と損害との因果関係の立証は困難を極めるとも言われています。件の高校生が再び同様の行為を行うことを警戒して、客足が遠のいたような場合には因果関係があると認定されやすくなりますが、回転寿司事業がもともと有していた潜在的リスクが明るみになったことで客足が遠のいたと評価される場合には、因果関係があるとは認定されづらくなります。その意味では、②の新たな設備導入に要する費用についても同様のことが言えます。

また、③の株価下落による損害についても、迷惑動画の拡散後一時、株価が下がったとは言え、その後上昇する局面もあったため、同じく因果関係の立証は困難なものになると考えられます(そもそも、株主の損害を会社の損害と主張できるのかという問題もあります)。

その意味で、営業損害として認められる範囲は、想像よりも遥かに狭いものとなるおそれがあります。場合によっては、事件の舞台となった店舗での④清掃費用・廃棄交換費用、⑤広報費用に限られる可能性もあります。

 

なお、客がアップロードした迷惑動画に対する民事訴訟の判例は確認できませんでしたが、過去に、蕎麦店のアルバイト学生が、食洗機に頭を入れたり、茶碗を胸に押し当てるなどの画像を投稿したケースでは、店側がアルバイト学生に対し訴訟を提起しています。この蕎麦店は、事件後、クレーム対応への店主の心労や売上減などから閉店に至ったため、1385万円の損害賠償を求めましたが、最終的に約200万円の支払いで和解する結果となっています。
 

コメント


一時期、通称「バイトテロ」として、アルバイトが不適切な画像や動画をSNS上にアップロードし炎上するケースが多発しました。しかし、アルバイトや従業員であれば、雇用時のスクリーニングやスマホの持ち込みに関するルール化、教育などにより、多少なりとも対策を講じる余地がありますが、客による迷惑行為の予防は非常に困難で、多くの企業が今後も頭を悩ませることになりそうです。

スシローでは迷惑客防止のために、動くカメラを導入することも検討しているとされていますが、スシローが全国に展開する店舗数を考えると、設備投資に要する額も膨大なものとなります。

今後のスシローの加害少年への対応、迷惑客防止策に注目が集まります。

 

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