NHKが4月から割増受信料導入へ、放送法の制度について
2023/01/23   契約法務, 不動産法務

はじめに

NHKは今年4月から受信料の未払い者に対して割増金を請求する制度を導入する予定であることがわかりました。放送受信規約の変更を総務省が認可したとのことです。今回は放送法による受信契約と判例を見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、NHKは放送受信規約を変更し、テレビ設置の翌々月末日までにNHKに受信契約を申し込まなければ割増金を請求するとされます。割増金は通常支払うべき受信料の2倍とされ、正当な理由なく受信契約を拒否した場合や不正な手段で受信料の支払いを免れた場合も対象となるとのことです。NHKは昨年12月に規約の変更を総務省に申請しており今月18日に総務省が認可した旨発表しました。NHKにはスクランブル化を求める声も寄せられているとされますが、NHK側は広く視聴者に受信料を負担してもらい、特定の利益や視聴率に左右されない公共放送の提供を担っているとし、スクランブル化はその役割に矛盾するとしております。

 

放送法の受信契約締結義務

 放送法64条1項では、「協会の放送を受信することのできる受信設備…を設置した者は、…協会と受信契約を締結しなければならない」としております。この受信設備には例外があり、放送の受信を目的としない受信設備、ラジオ放送または多重放送に限り受信することのできる受信設備については受信契約を締結する必要はありません(同項1号、2号)。また受信設備を住居に設置した場合、すでに当該住居および生計を共にする者が受信契約を締結している場合は重ねて受信契約を締結する必要はないとされております(同項但し書き)。このように放送法上、受信設備を設置することによってNHKと受信契約を締結することが義務付けられますが、この規定が個人の財産権や契約自由の原則を侵害し憲法にも反するのではないかが問題となることがありますが、最高裁はこれを合憲としております(最判平成29年12月6日)。

 

NHKの放送受信規約

 放送法64条3項によりますと、NHKは受信契約における契約の単位に関する事項、受信契約の申込の方法および期限に関する事項、受信料の支払い時期および方法に関する事項、不正な手段により支払いを免れた場合または正当な理由なく契約申込をしなかった場合の割増金の徴収に関する事項を定め、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないとされております。そしてNHKの放送受信規約によりますと、放送受信契約は世帯ごとに行うとされ、受信機を設置した者は遅滞なく受信契約書をNHKに提出しなければならないとしております(2条、3条)。そして受信機はNHKの放送を受信することができるものとされ、携帯や自動車用受信機なども含まれるとされます(1条2項カッコ書き)。そして今回の規約変更により、受信機設置の翌々月末日までに正当な理由なく受信契約の申込みをしない場合に受信料の2倍の割増金を徴収できる旨が追加されました。不正な手段により免れた場合も同様とされます。

 

放送法に関する判例

 放送法に関する判例として次のような事例が挙げられます。まず2006年に自宅にテレビを設置した男性が2011年にNHKに受信契約を締結するよう求められたもののそれに応じず、NHKが受信料の支払いを求め提訴したというものです。最高裁は64条1項を受信設備設置者に契約締結を強制する規定であり、NHKからの契約申込に対し承諾を命じる判決が確定することによって契約が成立するとしました(最判平成29年12月6日)。またホテルチェーン大手「東横イン」は全国235のホテルの全室にテレビを設置しておりますが、NHKがその全てについて受信料の支払いを求め提訴した事例で東京高裁は全室分約19億3500万円の支払いを命じ、最高裁が上告を棄却して確定しました(最高裁決定令和元年7月24日)。一方これに対し、賃貸住宅「レオパレス21」の事例では各物件の個別の部屋に設置されたテレビについて、物件所有者であるレオパレス側ではなく入居者に受信料支払義務があるとしました(最判平成30年8月29日)。

 

コメント

 今回の放送受信規約の改定で、テレビ設置の翌々月の末日までに受信契約をしない場合、NHKから割増金の請求がなされることとなります。実際に徴収される際にはどのように請求されるのか、またそれを拒否した場合にどのように強制実現されるのかなどいくつか課題も残るものと思われます。近年NHKの受信料を巡っては、NHKが受信できない装置やスクランブル化の要望など様々な声が上がっております。またホテルや賃貸物件を扱う企業にとっても受信契約の数によっては相当なコストの負担となります。今後もNHKの受信料に関しては様々な分野で議論を呼び、また制度の改正などもあり得ると予想されます。放送法の基本的な解釈や判例などを今一度確認し、自社での扱いを確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。

 

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