SMBC日興証券に54億円求刑、相場操縦のリスクについて
2022/12/27 コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに
相場操縦容疑で金商法違反に問われたSMBC日興証券の公判で26日、検察側が同社に罰金10億円と追徴金約44億4000万円を求刑したことがわかりました。約11億円の利益を得ていたとのことです。今回は金商法が規制する相場操縦行為について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、SMBC日興証券は、通常の取引時間外に大株主からまとまった株式を買い取り、他の投資家に転売する、いわゆるブロックオファー取引を巡り、2019年から2021年にかけて計10銘柄で大量の買い注文を出していたとされます。同社エクイティ本部の山田被告や佐藤被告らは、ブロックオファー取引の中止や顧客離れを懸念し、値崩れを防ぐために相互に連絡を取りながら大量の買い注文を組織的に繰り返していたとのことです。同社のブロックオファー取引は転売日などが投資家側に推測されやすく、他社に比べて株価が下落しやすいという問題があったとされます。検察側は組織的に不正な注文を繰り返して利益を得ていたと指摘しております。
相場操縦とは
金商法では風説の流布や偽計、相場操縦、そしてインサイダー取引などがいわゆる不公正取引として禁止されております。相場操縦とは、市場において相場を人為的に変動させるにもかかわらず、その相場があたかも自然の需給によって形成されたものであるかのように他人を誤解させるなどによって自己の利益を図ろうとする行為を言うとされます。このような行為は公正な価格形成を阻害し、他の投資者に不足の損害を与えることになることから、金商法では厳しく規制されております。日本取引所グループの自主規制法人では、このような違法行為が行われていないかをチェックするために、株価や売上高が急激に変動した銘柄などを対象として審査銘柄を抽出し、売買の経緯や顧客の内容等について照会したり分析を日々行い、証券取引監視委員会に報告しているとされます。
相場操縦行為の具体例
相場操縦行為は具体的に仮想・馴合売買(金商法159条1項)、変動操作取引(同2項)、安定操作取引などが挙げられます。仮装売買とは同一人が権利の移転を目的とせず、同一の株式等について同時期に同価格で売りと買いの注文を発注する仮装取引です。そしてこのような行為を複数の者であらかじめ通謀して行った場合は馴合売買となります。変動操作取引は株式等の売買が活発に行われていると誤解させて株価を人為的に変動させるような行為を言います。たとえば約定させる意図とない優先順位の低い買い注文をまとまった数量で発注する行為(見せ玉)、売り注文に対して高値の買い注文を連発し株価を引き上げる行為(買い上がり買付)、現在値より下値に多数の買い注文を出して株価が下落しないようにする行為(下値支え)、取引終了時刻直前に高値で買い注文を発注して約定させ、終値の形成に関与する行為(終値関与)などが違法となります。
相場操縦行為の罰則
違法な相場操縦行為に対しては、罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が科され(197条1項5号)、財産上の利益を得る目的で相場操縦を行った場合は10年以下の懲役、3000万円以下の罰金とより重くなります(同2項)。法人の役職員が行った場合、法人に対しても7億円以下の罰金を科す両罰規定が置かれております(207条)。これら違法な相場操縦行為で得た財産は没収され、没収できない場合はその相当額を追徴金として支払いを命じられることがあります(198条の2)。またさらに行政処分として課徴金納付命令が出されることとなります(174条、174条の2、174条の3)。
コメント
本件でSMBC日興証券は同社のブロックオファー取引に関して、特定の銘柄の株価の下落を避けるために、大量の買い注文を入れて株価を下支えしたものとされております。検察側は専門的な知識・経験を悪用して、資金力に物を言わせ市場をほしいままにしており、大規模かつ組織的で悪質として罰金10億円、追徴金約44億円という破格の求刑を行いました。会社側は再発防止と信頼回復に務めるとしております。以上のように金商法では株式市場での相場を操縦することはインサイダー取引などと同様にかなり厳しい罰則を置いております。また相場操縦は適法な通常の取引と見分けがつきにくい微妙な事例も多く、どのような行為から違法となるかがわかりにくい場合も多いと言えます。特定の銘柄を高く売ったり、また相場を安定させたいといった場合はよくありますが、そのために売り注文や買い注文を発注することは危険と言えます。社内で今一度周知していくことが重要と言えるでしょう。
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