公取委が「1円スマホ」で強制調査へ、不当廉売規制について
2022/10/26   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに

 携帯電話大手の代理店がスマートフォンを1円で販売している問題で、公正取引委員会が強制調査に乗り出したことがわかりました。強制権限を使った調査は異例とのことです。今回は独禁法が規制する不当廉売について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、公取委は2021年6月、携帯電話市場における競争政策上の課題についての調査結果と意見を公表しました。それによりNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に対して消費者向けの広告や販売店との取引などについての自主点検や改善を要請しておりました。3社は同年10月に改善結果報告を行ったものの、その後もスマホの1円販売など競争政策上問題とされる事例が指摘されており実態解明が進んでいなかったとされます。公取委はスマホを実質1000円以下で販売したことがある代理店に携帯大手との取引実態などを11月2日までに報告するよう独禁法に基づいて命令したとのことです。問題があった場合は年内にも報告書で指摘するとされます。

 

不当廉売とは

 独禁法2条9項3号によりますと、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」を不公正な取引方法の1つである不当廉売として禁止しております(19条)。また一般指定6項でも「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」も不当廉売とし規制しております。いわゆるダンピングと呼ばれる行為です。前者の法定不当廉売については排除措置命令(20条)だけでなく課徴金納付命令の対象となっております(20条の4)。課徴金の額は売上額の3%とされます。そして後者の一般指定による不当廉売は、法定不当廉売の要件を満たさない場合でも公正な競争秩序に悪影響を与えるときは排除措置命令等の対象となります。

 

不当廉売の要件

 商品やサービスをできるだけ安く提供することは消費者にとってメリットであり、競争秩序にとっても望ましいと言えます。それではどのような場合に違法な不当廉売となるのでしょうか。公取委のガイドラインによりますと、「供給に要する費用」とは総販売原価を言うとしております。総販売原価とは商品の供給に要する全ての費用を合計したものであり、通常の製造業では製造原価に販売費と一般管理費を加えたもの、販売業では仕入原価に販売費と一般管理費を加えたものとされます。そして「著しく下回る対価」とは、商品を供給しなければ発生しない費用、すなわち「可変的性質を持つ費用」さえ回収できない価格で販売することとのことです。なお工場設備費や本社の維持費など供給にかかわらず発生する費用を「固定費用」と言います。

 

調査のための強制権限

 公取委は「その職務を行うために必要があるときは、公務所、特別の法令により設立された法人、事業者若しくは事業者の団体又はこれらの職員に対し、出頭を命じ、又は必要な報告、情報若しくは資料の提出を求めることができる」とされております(40条)。独禁法に違反しているかどうかを調査するための強制的な調査権限ということです。これ以外にも公取委は公務所や法人、学校、事業者、学識経験者などに必要な調査を嘱託することもできるとされます(41条)。前者の強制調査については、これに違反して出頭しなかったり、報告、情報、資料の提出をせず、または虚偽の報告などを行った場合は300万円以下の罰金が課されることがあります。

 

コメント

 公取委はかねてからいわゆる「1円スマホ」などといった携帯端末の極端な廉価販売を問題視し、NTTドコモなどの携帯大手4社とその回線を利用して通信サービスを提供するMVNOや中古端末販売業者へのヒアリング調査を行ってきたとされます。しかしこれらの事業者は相互に秘密保持契約を結んでおり実態が十分に把握できていなかったとされます。そこで今回の強制調査に踏み切ったと言われております。通常スマートフォンなどの携帯端末は安くても数万円はかかり、それを1円で販売する場合、総販売原価を著しく下回るものと想像できます。その流通の仕組みや目的、背景などによっては違法な不当廉売と判断されることもあり得ると言えます。以上のように顧客獲得のために商品やサービスを極端に低廉な価格で販売した場合は不当廉売となる可能性があります。訳あり商品や消費期限が迫っている場合などは問題ありませんが、集客やライバル店への妨害目的の場合は問題となります。今一度自社の価格設定を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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