負傷女性とウーバーが和解、個人事業主と使用者責任について
2022/10/18   契約法務, 民法・商法

はじめに

 飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員の自転車に追突され、負傷したとして大阪市の会社役員の女性(68)が配達員と運営会社のウーバージャパンに約250万円の損害賠償を求めていた訴訟で14日、和解が成立していたことがわかりました。ウーバージャパンに使用者責任が成立するかが争点となっていたとのことです。今回は使用者責任と個人事業主について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、原告の女性は2018年6月、大阪市内の歩道で歩行中にスマホの画面を見ながら自転車を運転していたウーバーイーツの配達員に追突され、頸椎ねんざの怪我を負ったとされます。女性は配達員とウーバージャパンを相手取り、損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しておりました。争点はウーバーイーツの配達員の過失による損害に、ウーバージャパンが責任を負うかという点であったとされ、ウーバー側は、配達員は独立した自営業者であることから使用者責任はないと反論していたとのことです。なお配達員は過失傷害罪で略式起訴され、大阪簡裁が罰金5万円の略式命令を出しております。

 

個人事業主

 ウーバーイーツなど宅配代行の配達員は運営会社と雇用契約を締結した従業員には該当せず、独立して事業を営む個人事業主という扱いとなります。個人事業主は労働基準法などの労働法令上の「労働者」には該当せず、これらの労働法令が適用されないことになります。そのため労働時間規制(労基法32条)、賃金規制(24条)、年次有給休暇(39条)などの規定も適用されません。1日8時間以上労働しても残業代の支払義務や時間外労働規制も受けることはありません。ただしこの個人事業主に該当するか労働者に該当するかは、その契約名目や肩書で決まるものではなく、客観的に使用者の指揮監督下で労働しているか、また労務の対価として賃金をもらっているかで判断されるので注意が必要です。また配達員など個人事業主は従業員ではないことから源泉徴収はされず、確定申告が必要とされます。なお配達員は被雇用者でないため労災加入もできませんでしたが、2021年9月から特別加入が可能となっております。

 

個人事業主と使用者責任

 民法715条1項によりますと、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行のために第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとされております。一般に使用者責任と呼ばれるものです。会社の従業員が業務上だれかに損害を及ぼした場合、本人が賠償責任を負うのは当然として、一定の要件のもとに雇用している会社も責任を負います。これは従業員を使用して利益を上げている以上、それによって生じるリスクも負うべきとの考え方によるものです。使用者責任が発生するためには、使用者と被用者との間に使用関係があることが必要です。雇用や委任などが典型例と言えます。弁護士や医師など独立して仕事をしている者は原則的に該当しないことになります。つまり事故を起こした者が個人事業主であった場合は原則として使用者責任は生じないということです。

 

使用者責任に関する裁判例

 使用者責任が成立するかに関して、下請け会社の従業員が行った不法行為につき、元請け業者が責任を負うかが問題となった事例で最高裁は、元請け人が下請人対して指図または監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係と同視しうる場合は使用者責任を負うとしております(最判昭和37年12月14日)。また下請業者が零細な業者であり、元請け業者の指示に従わざるを得ない立場に置かれていた場合は下請業者の従業員に対して、下請業者への指示を通じて容易に指揮監督関係を及ぼしうることから使用者責任を認めた例もあります(東京高裁昭和53年8月28日)。このように直接的な雇用関係などが無い場合でも実質的に指揮監督に服さざるを得ない場合は使用者責任が認められる場合があるということです。

 

コメント

 本件で原告側の女性はウーバーイーツ配達員の過失によって負傷しております。この配達員自身が賠償責任を負うことに疑問の余地はありませんが、直接的な雇用関係がなく個人事業者として配達を行っていることからウーバージャパンに使用者責任は生じないのではないかが争点となっておりました。今回は和解という形で終結し、裁判所の判断は出されませんでしたが、上記のように実質的な指揮監督関係が認められた場合、ウーバージャパンにも使用者責任が生じる可能性もあったのではないかと考えられます。以上のように個人所業主として配達員と契約する場合は従業員と異なり労働法が適用されない、源泉徴収がなされないなど様々な扱いの違いが生じます。しかし一般消費者などから見れば従業員も個人事業主も変わらず、同じように法的問題が生じると言えます。形式的な法原則だけでなく、例外が認められた裁判例についても把握しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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