9月末に最高裁で弁論、JASRACと音楽教室の著作権訴訟について
2022/07/29   知財・ライセンス, 著作権法

はじめに

 音楽教室で講師や生徒が曲を演奏する際に著作権料を支払う必要があるかが争われている訴訟の上告審で、9月29日に弁論が開かれることがわかりました。一審、二審で結論が異なっております。今回は音楽教室とJASRACの訴訟を見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日本音楽著作権協会(JASRAC)が2011年頃からフィットネスクラブ、カルチャーセンター、ダンス教室、カラオケ教室と相次いで楽曲の使用料徴収を開始してきており、2017年頃にはヤマハに対して音楽教室での使用料徴収を開始すると通知したとされます。これに対しヤマハなど音楽教室を運営する250の法人や個人が原告となって、JASRACを相手取り、音楽教室での楽曲の演奏について使用料を支払う義務がないことの確認を求める訴訟を提起したとのことです。一審東京地裁判決は2020年2月28日に、二審知財高裁判決は2021年3月18日にそれぞれ出ております。以下具体的に見ていきます。

 

問題の所在

 著作権法によりますと、著作権に含まれる権利として、著作物の複製権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権などの権利が定められております(21条~28条)。それらの中に演奏権というものが存在します(22条)。「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する」とされます。本件で問題となったのは、音楽教室での演奏は「公衆」に「聞かせることを目的」としての演奏に該当するのかという点です。言い換えると、音楽教室での演奏における著作物の利用主体は誰なのかという点です。音楽教室側の主張によりますと、音楽教室ではあくまで講師と生徒が練習のために演奏しているだけであり、音楽教室自体が演奏しているわけではないことから、使用料の支払い義務は無いとされます。これに対しJASRAC側は、音楽教室自体が生徒という「公衆」対して演奏しているとしております。

 

カラオケ法理

 この点に関する著名な判例として「クラブキャッツアイ事件判決」(最判昭和63年3月15日)があります。この事例では、スナックの経営者がカラオケを設置して客やホステスに歌唱させていたところ、JASRACが演奏権を侵害しているとして店側に損害賠償を求めたというものです。これについて最高裁は、カラオケ機器の設備や機器の操作等をスナック側が管理・支配しており、利用客に歌唱させることによって店の雰囲気作りをし、集客して利益を増大させることを意図していたとして、音楽著作物の利用主体をスナック経営者であると判断しました。この経営者による管理・支配と利益の帰属を要件として利用主体を判断する考え方をいわゆる「カラオケ法理」言い、それ以降のカラオケボックス等での同様の事件で踏襲されていきました。また近年ではこれらに加え、対象や方法、関与の内容、程度等の諸要素を加味してより柔軟に判断されるようになったとされます(ロクラクⅡ事件最判平成23年1月20日)。

 

一審・二審判決

 本件で一審東京地裁は、音楽教室における講師と生徒の演奏について、その演奏主体を音楽教室自身であると判断し著作権法22条の演奏に該当するとしました。つまり原告である音楽教室側の全面敗訴と言えます。理由として曲の選定や講師による指導、設備などに対し音楽教室が管理・支配しており、それによる利益も音楽教室に帰属しているとのことです。つまり上記のカラオケ法理が適用されたと言えます。これに対し二審知財高裁は、講師による演奏と生徒による演奏の本質を分けて考え、講師については音楽教室の管理支配下にあるとし、演奏主体を音楽教室自身としました。一方で生徒については講師による指導を受けるために演奏しており、音楽教室の管理支配下にあるとは言えないとして演奏主体を生徒自身としました。つまり生徒に関しては音楽教室は著作権料をJASRACに支払う義務は無いということです。

 

コメント

 本件では音楽教室での講師や生徒による楽曲の演奏についても著作権法の演奏権に該当し、使用料の支払義務が生じるのかが問題となっております。上記のように一審東京地裁はカラオケ法理を適用して講師、生徒の両方で演奏主体を音楽教室自身であると判断しました。他方知財高裁は講師と生徒について一律にカラオケ法理を適用するのではなく、それぞれの本質に言及して生徒については演奏主体性を否定しました。より近年の判断の流れに近い判断方法と言えます。今後最高裁での判断に注目が集まりますが、音楽教室側の使用料支払い義務を全面否定する判決は出にくいのではないかと考えられます。以上のように施設における楽曲の使用については、それらの支配・管理と利益の帰属を基本に、より細かく利用主体を分析していく傾向にあると言えます。店舗で客に楽曲を使用させる場合はこれらの判例を参考に対応を準備していくことが重要と言えるでしょう。

 

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