公取委が企業結合届出状況を公表、企業結合規制について
2022/06/22   戦略法務, 会社法

はじめに

 公正取引委員会は22日、令和3年度の企業結合届出の状況と結合事例について公表しました。届出を受理した件数は対前年度比で26.7%だったとのことです。今回は独禁法が規定する企業結合規制について見直していきます。

 

公取委の公表

 公取委の公表によりますと、令和3年度における企業結合計画の届出を受理した件数は337件で、そのうち1次審査の結果独禁法上問題がないとして排除措置命令は行われない旨通知をしたものが328件であったとされます。より詳細な審査が必要であるとして2次審査に移行したものは1件、1次審査中に取り下げられたものは8件であったとのことです。また届出は必要なかったものの当事会社から公取委に相談があったものは14件であったとされます。令和3年度の主要な企業結合例として日本製鉄と東京製綱の結合やENEOSとジャパン・リニューアブル・エナジーの結合などが紹介されております。

 

企業結合規制とは

 独禁法では、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる企業結合を禁止しており、一定の要件に該当する企業結合を計画している場合は事前に公取委に届け出る必要があるとされます。対象となる企業結合は、「株式取得」「事業の譲り受け」「合併」「会社分割」「共同株式移転」「役員兼任」とされております(10条~16条)。これらに違反して企業結合が行われた場合、公取委は事業者に対し、株式の全部または一部の処分や事業の一部譲渡その他違反行為に対して排除措置命令を出すことができます(17条の2)。なお課徴金納付命令の対象にはなっておりません。このようにして市場の寡占や独占化を防止し、公正で自由な競争が阻害されることを防止しているということです。

 

事前届出手続き

 以上のように独禁法では日本市場に影響を及ぼす可能性の高い、一定の規模の企業結合について事前届出を義務付けております。企業側から企業結合計画が届出られたら30日間企業結合の実行が停止されることとなります(10条8項)。その間に一次審査がなされ、問題がなければその旨の通知が、より詳細な審査が必要と判断された場合には審査に必要な報告などが要請されます(同9項)。この二次審査でも問題がないと判断された場合はその旨の通知がなされ、問題があると判断された場合には意見聴取を経て排除措置命令が出されることとなります。ここで届出を要する場合とは、合併や株式移転、会社分割の場合は国内売上合計額が200億円超の会社と50億円超の会社が結合する場合とされます。株式取得の場合も同様の規模の会社による場合となっております。

 

競争の実質的制限

 それでは「一定の取引分野における競争の実質的制限」とはどのような場合を言うのでしょうか。一定の取引分野とは市場を意味し、その範囲は商品・役務の範囲と地理的範囲の2つの側面から原則として需要者の視点から画定されることとなります。そして競争の実質的制限とは、市場における価格や品質、数量その他の条件等をある程度自由に左右できる状態を言うとされております。つまり市場を支配している状態とも言えます。これらの判断はシェアや競争圧力、市場参入圧力等様々な要素を考慮して行われ、非常に複雑と言えます。公取委の企業結合ガイドラインでは「セーフハーバー基準」が設けられており、企業結合後のHHIが1500以下である場合、1500~2500でかつ増加分が250以下である場合、2500超でかつ増加分が150以下である場合は問題がないとされます。HHIとは「ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス」のことで、市場における各社のシェアの2乗の合計を言います。シェアが特定の会社に集中しているほど数字が大きくなります。

 

コメント

 公取委の発表では、令和元年度の企業結合届出件数は310件でしたが、令和2年度では266件とされます。そして今回発表された令和3年度ではまた増加し337件と前年比で26%以上増えております。そのうち二次審査にまで移行した例はいずれの年も1件のみとなっており、排除措置命令にまで至った例はありません。行為類型別では株式取得が288件と最も多くなっております。近年の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大などの影響を受け、各事業分野で組織再編が加速しており、企業結合もますます増加していくものと予想されます。資本金を減少させ、中小企業化して税負担を軽減したり、上場廃止を行うなど経営のスリム化や合理化だけでなく、企業間結合によるノウハウの集約やシナジーの発生など様々な再編の態様を検討することが求められます。今一度法規制を確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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