ベトナムでの贈賄容疑で「天馬」社長らを起訴、外国公務員贈賄について
2022/05/24   海外法務, コンプライアンス, 不正競争防止法, 外国法

はじめに

 収納ケース「Fits」などプラスチック製品の製造を手掛ける「天馬」(東京)がベトナムの現地公務員に賄賂を渡していた疑いがあるとして東京地検特捜部は23日、同社社長ら3人を不正競争防止法違反で在宅起訴していたことがわかりました。法人としても起訴されているとのことです。今回は外国公務員贈賄について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、「天馬」のベトナム子会社「天馬ベトナム」が追徴金の減免を受ける見返りに、現地当局員らに現金計2360万円相当の賄賂を渡していた疑いがもたれているとされます。同社は2017年に現地税関局の職員から現金を要求され、子会社に賄賂提供を了承し980万円相当の現金を、2019年にも同様に1380万円相当の現金を渡していたとのことです。東京地検特捜部はベトナム捜査当局に共助を要請するなどして捜査を進め、同社前社長の藤野被告(69)ら3人を不正競争防止法違反の罪で東京地裁に在宅起訴しました。この賄賂提供によっておよそ18億円相当の追徴金が全額減免されていたとのことです。

 

外国公務員賄賂の罪とは

 不正競争防止法18条1項によりますと、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込若しくは約束をしてはならない」とされております。これはOECD(経済協力開発機構)の「国際商取引における外国公務員に対する賄賂の防止に関する条約」に基づき、国内法として不正競争防止法の平成10年改正で盛り込まれた制度です。これに違反して外国公務員等に賄賂等を提供した場合、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となります(21条2項7号)。また法人に対しても3億円以下の罰金が規定されております(22条1項3号)。

 

外国公務員等とは

 不正競争防止法18条2項各号によりますと、外国公務員等とは、(1)外国政府または地方公共団体の公務に従事する者、(2)公共の利益に関する特定の事務に従事する者、(3)外国の公的企業の事務に従事する者、(4)国際機関の公務に従事する者、(5)外国政府もしくは地方公共団体または国際機関の権限に属する事務であって、これらの機関から委任され事務を行う者とされております。外国の公的企業とは、外国政府や地方公共団体が議決権や出資総額の過半数を保有し、または役員の過半数を任命されている事業者を言います。また国際機関とは国連などの機関を言うとされます。

 

営業上の不正の利益とは

 経済産業省のガイドラインによりますと、「営業上の利益」とは事業者が営業を遂行していく上で得られる有形無形の経済的価値その他利益一般を指すものとされております。そして「不正の利益」とは、公序良俗または信義則に反するような形で得られる利益を意味するとされます。具体的には外国公務員等への利益供与等を通じて自己またはその他の者に有利な形で裁量を行使させることによって獲得する利益や、利益供与等によって違法な行為をさせることによって得られる利益とされます。外国公務員等に対し、旅費や食費などの経済的負担や贈答は、営業上の不正の利益を得る目的で行われる典型例とされますが、純粋な社交儀礼や自社製品やサービスの理解を深めるといった目的であれば必ずしも該当するものではないとされます。その他違法となる可能性が高い行為として、高級車等の提供、少額であっても頻繁な贈答品の提供、換金性のある商品券の提供、関係者をグループ企業で優先的に雇用することなどが挙げられております。

 

コメント

 本件で天馬はベトナムの子会社を通じて、現地の税務当局から求められた追徴金を減免させるために、税務当局の幹部に2回に渡って計2360万円相当の賄賂を渡した疑いがもたれております。これらが事実であった場合、現地公務員の裁量にかかる行為を有利な形で行使させる目的で提供したもの言え、営業上の不正の利益目的に該当するものと考えられます。以上のように不正競争防止法では、外国の公務員等への利益の供与を禁止しております。国によってはインフラの整備を受けたり、営業の許認可を受けるなど様々な場面で現地当局や公務員への少額な金銭供与(スモール・ファシリテーション・ペイメント)が慣習となっている場合もあります。しかし現在、国際社会ではこれらの少額な金銭供与も撲滅すべきとの動きが進んでおり、日本でも原則として違法と扱っております。海外で事業を展開している場合、または海外進出を検討している場合は、これらの点にも留意して対応していくことが重要と言えるでしょう。

 

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