金融庁が「企業年金を取り巻く状況に関する調査」を公表
2022/06/02   労務法務, 税務法務

はじめに


金融庁は、ボストン・コンサルティング・グループ合同会社に調査を委託していた「企業年金を取り巻く状況に関する調査」について、2022年5月20日に調査結果を公表しました。本調査では、企業年金のうち、確定給付型企業年金を取り巻く状況の全体像整理、各課題領域の概要、課題解決に向けた取り組み方向性について検討されています。そこで今回は、本資料の概要を説明します。

 

確定給付型企業年金とは?


確定給付型企業年金は、厚生年金基金や企業型確定拠出年金と共に「企業年金」を構成する年金制度です。企業が従業員と給付の内容をあらかじめ約束し、高齢期において従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる点が特徴です。年金資産は一括して運用され、運用のリスクは企業が負っています。

調査の背景


国内において、現在、約900万人が確定給付型企業年金に加入しており、企業に勤める労働者の老後の年金給付を実現するうえで大きな役割を果たしていると言われています。また、労働者の老後の生活の支えという側面のみならず、年金資産の運用状況が企業の業績に大きな影響を与えたり、我が国のインベストメント・チェーンにおいて、アセットオーナー(投資先企業へと向かう投資資金の保有者)の主要な一角を占め、大きな影響力を有するなど、確定給付型企業年金には様々なステークホルダーが介在しています。
また、日本の資産運用エコシステム、インベストメントチェーンにおける課題としては、画一的、保守的な資産配分方針や取引慣行に対する課題認識が増していることも指摘されています。このような背景から、今回の調査は、①受給者・企業・株主など企業年金に係る主要なステークホルダーの視点、②インベストメント・チェーンの視点などを持ちながら、企業年金を取り巻く状況と課題を整理することを目的に実施されました。

 

企業年金を取り巻く状況の全体像整理


「企業年金を取り巻く状況の全体像整理」としては、 制度面、運用面での各種課題が抽出されました。

【制度面の課題】
・多様なステークホルダーの期待に対応した目的・ミッションの定義
・運用高度化に向けたガバナンス・インセンティブの強化
・運用戦略・運用成果に関する情報公開の促進

【運用面の課題】
・専門性を持った内部運用体制の構築
・運用成果に基づく業務委託先間での競争原理の強化
・中小基金における共同運用プラットフォームの更なる活用

などが挙げられています。

 

各課題領域の概要


「各課題領域の概要」ページでは、企業年金をめぐっては、社員だけではなく、株主や資本市場からの期待も存在していることを明らかにしています。社員は自らの利益の代弁者、老後資産の守り手として企業年金を考えているのに対して、株主は企業業績に大きな影響を与えるリスク要因でありつつも、人材獲得等、企業の競争力に繋がる要素でもあると認識されています。また、資本市場ではリスクプロファイルに合わせた資金の供給者として、監督官庁としては年金制度の担い手、 企業活動における重要な一要素、 資本市場における重要な参加者として期待しているとされています。さらに、企業年金制度に関する情報公開のルールの比較として、日本、英国、米国で各項目が比較されています。

 

課題解決に向けた取り組み


課題解決に向けた取り組みの方向性としては、

①より多様なステークホルダーに配慮した、情報公開ルール整備
②運用実態に関する外部モニタリング・外部監査の強化
③運用体制・運用戦略の高度化に向けた内外の体制強化

の3つの提案がなされています。①の面では、財務情報、運用戦略・運用体制に対する開示を拡充し、各基金の運用実態に関する透明性を向上させること、②の面では、高い運用成果を上げることに対する外部からの監視、および、それらを通じた内部的なインセンティブの強化させること、③の面では、運用担当者に対する人材要件の導入することや、業務委託先に対する利益相反・不適正取引等の監視の強化を行うことなどが提案されています。

 

コメント


本報告書は、企業年金制度を取り巻くステークホルダー全体を俯瞰し、海外の年金制度・年金基金との比較分析を行うことで、日本国内の企業年金のあり方に関して具体的な提案を行うことが目的とされていました。確定給付型企業年金を導入している企業には、確定給付企業年金法に基づき、法令や厚生労働大臣の処分・規約を遵守する義務、加入者のため忠実に業務を遂行する義務、所定の行動基準を遵守する義務、加入者に年金規約の内容を周知する義務、加入者に対する利益相反行為の禁止等、様々な義務等が課せられています。これらを遵守しつつ、各ステークホルダーの期待に応えて行くことは、なかなかの困難を伴いますが、先述のとおり、日本国内の企業年金は社員だけでなく、企業や市場など多くのステークホルダーが制度の向上に期待しています。海外の年金制度の動向を含め、アンテナを張り続けることが重要になりそうです。
 

【関連リンク】
企業年金を取り巻く状況に関する調査最終報告書(令和4年3月24日)

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