大阪高裁が東リの直接雇用認める、「偽装請負」とは
2021/11/11 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
大手住宅建材メーカー「東リ」(兵庫県伊丹市)の伊丹工場で業務請負企業の従業員として働いていた男性5人が、実態は違法な「偽装請負」だったとして地位確認などを求めていた訴訟で4日、大阪高裁は偽装請負であることを認め直接雇用を認めました。労働者派遣法40条の6を適用して直接雇用を命じた判決は初とのことです。今回は偽装請負について見ていきます。
事案の概要
産経新聞によりますと、原告の男性5人は業務請負企業の従業員として東リの伊丹工場にて20年にわたって業務を行っていたとされます。しかし実際には日常的に東リ側から具体的な指示を受けて業務に従事していたとのことです。男性5人は、「形式的には業務請負であるものの、実態は違法な偽装請負に当たる」として直接雇用や賃金相当分の支払いなどを求め提訴しておりました。これに対し、一審神戸地裁は原告側の主張を退け、請求を棄却していました。
偽装請負とは
偽装請負とは、契約上、形式的には請負契約となっているものの、実態としては労働者派遣であるものを言います。労働者派遣は派遣先と派遣元事業者との契約で派遣元事業者に雇用される派遣労働者が派遣され、派遣先の指揮命令下で働きます。一方請負は注文主と請負業者が請負契約を締結し、請負業者に雇用される労働者が注文主のところで仕事を完成させます。注文主の指揮を受けない点に派遣労働者との違いがあります。請負として注文主のところで業務に従事しているものの、注文主の指揮を受け、実態としては派遣労働となっている場合が違法な偽装請負ということです。
偽装請負の判断基準
上記のように形式上は請負でも実態が派遣であれば違法な偽装請負となります。厚労省のガイドライン(昭和61年労働省告示第37号)ではその基準が示されており、「請負」であるためには請負事業者が(1)自己の雇用する労働者の労働力を直接利用していること、(2)請け負った業務を自己の業務として独立して処理していることが必要があり、そうでない場合は派遣事業とみなされることとなります。具体的には、請負事業者側が業務遂行に関する指示・管理を行っていること、労働者の業務に関する評価を行っていること、労働者の勤怠管理を行っていること、労働者の服務上の規律の管理を行っていること、労働者の配置決定等を自ら行っていること、業務の処理に要する資金を自ら調達していること、自己の責任と負担で準備し調達する資材、機械等で業務を処理していることなどが挙げられております。つまり請負事業者、注文主のどちらの指揮監督下にあるかということです。
労働契約申し込みみなし制度とは
労働者派遣法40条の6では、違法な労働者派遣が行なわれた場合、派遣先は労働者に対して、派遣元事業者と同じ労働条件で労働契約を申し込んだものとみなされます。これは平成27年改正で導入された制度で、対象となるのは派遣禁止業務で派遣労働者を受け入れた場合、無許可・無届けの派遣元事業者から派遣労働者を受け入れた場合、派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れた場合、そして偽装請負で受け入れた場合などが挙げられております(同条1項1号~5号)。このみなし申し込みはこれら違法派遣行為が終了した日から1年を経過する日まで撤回することができず(同条2項)、その期間内に労働者側から承諾に関する意思表示をうけなかった場合は失効します(同条3項)。
コメント
本件で原告側の男性5人は、形式上、請負事業者から業務請負として送り込まれる形で東リの工場で業務を行っておりましたが、その実態は東リ側から指揮を受けて働いていたとされます。大阪高裁は偽装請負であったと認め、またそれによる直接雇用のみなし申し込みも認めました。この規定によって直接雇用が認められたのは初めてとされます。以上のように形式上は請負契約とされていても、注文主側の指揮命令下で労働を行っている場合は偽装請負とみなされることとなります。偽装請負には罰則として1年以下の懲役、100万円以下の罰金が規定されており(59条2号)また労基法や職業安定法に抵触することもありえます。労働者を派遣している側だけでなく、労働者の派遣を受けている場合でもこれらの規定に違反していないかを、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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