47人中21人取り消し、内定と内々定について
2021/11/05 労務法務, 民法・商法, 労働法全般

はじめに
部屋探しアプリ「CANARY」の運営などを手がける「BlueAge」(千代田区)が内々定47人のうち21人の大量取り消しを行っていたことがわかりました。インターネット上で騒ぎになっており公式に謝罪を表明しているとのことです。今回は内定と内々定について見ていきます。
事案の概要
J-CASTニュースによりますと、BlueAgeは50人を採用予定とし、今年4月から9月までの間に順次内々定を出して計47人なったとされます。しかし内定解禁日の10月1日直前に座談会・グループディスカッションを行い、その結果に基づいて21人の内々定を取り消したとのことです。同社では内々定後も採用選考プロセスを継続しており、最終の採用選考プロセスでの評価によっては内々定を取り消す可能性があったとし、その点についての説明が不十分であったとしております。また内々定が取り消された21人に対しては個別に対応すべく連絡を開始しているとのことです。
内定と内々定
就職活動をする学生が企業から採用通知を受け取り、学生が入社承諾書を提出することによって労働契約が成立した状態を一般に「内定」と呼びます。この内定は就労始期付解約権留保付労働契約と言われており、法的には労働契約がすでに成立しているとされます(最判昭和54年7月20日)。日本では経団連の方針によって内定は10月1日から解禁となることから、それまでは10月に内定を出す旨の通知がなされることが多いと言えます。これを一般に「内々定」と呼びます。内定と異なり内々定の段階ではまだ労働契約は成立しておらず、当事者間に法的拘束力は生じていないと言われております(福岡高裁平成23年3月10日)。
内定取り消し
内定は上記のとおり解約権が留保された労働契約とされており、内定取り消し、すなわち労働契約解除もあり得るものとなっております。しかし当然のことながら企業は自由に内定取り消しをすることができるわけではなく一定の要件のもとで許容されます。上記最高裁判例によりますと、内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知り、その事実を理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨目的に照らし客観的に合理的であり社会通念上相当と認められる場合のみ適法となります。一般的には単位不足により卒業できなかった場合や、内定者の健康上の理由、内定者の犯罪行為、企業の経営上やむを得ない業績悪化などで内定が取り消されることが多いとされますが、適法性については個別的に判断されます。
内々定取り消し
上でも触れたとおり内々定は内定とは異なり、いまだ労働契約が成立したとは言えず法的拘束力は無いとされております。そのため学生側も内々定を受けながらも就職活動を継続し、複数の企業から内々定をもらうことも多いと言えます。しかし内々定の取り消しの時期や企業側の説明のしかたによっては、その取り消しが違法となることも有りえます。内定通知の数日前に具体的な理由の説明もなく内々定が取り消された事例で裁判所は、労働契約締結過程における信義則に反し、学生の期待利益を侵害するとして不法行為の成立を認め慰謝料の支払いを命じました(福岡地裁平成22年6月2日)。
コメント
本件でBlueAgeは9月までに順次内々定を出した47人のうち21人に対して、内定通知を出す10月直前になって内々定を取り消したとされます。同社では内々定を出した後も選考プロセスが継続しており、内定を出すかどうかはその最終選考によるとしていたとのことです。同社は新卒採用活動の経験が浅く「内々定」についての認識が不足していたとしております。以上のように内定の時点では労働契約が成立しますが内々定の段階では労働契約は成立していないとされます。しかし内々定は自由に取り消すことができるというものではなく、時期や採用過程の状況によっては信義則に反するとして不法行為となることがあります。内定取り消しについてもそれが適法になるかは個別に判断されることとなります。それぞれの法的性質や裁判所の判断を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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