東京地裁がブラザーに賠償命令、抱合せ販売とは
2021/10/01 コンプライアンス, 独占禁止法
はじめに
ブラザー工業(名古屋市)がプリンターの設計を変更し、純正のインクカートリッジしか使えないようにしたのは独禁法に違反するとして、互換品を販売するエレコム(大阪市)が差止等を求めていた訴訟で、東京地裁が差止と約1500万円の賠償を命じていたことがわかりました。不当な抱き合わせに当たるとのことです。今回は独禁法の抱き合わせ販売について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞によりますと、インクジェットプリンターを製造販売するブラザー工業は、2018年12月以降、自社のプリンターのインクカートリッジの読み取り機能の設計を変更し、純正品しか認識しないようにしたとされます。これによりインクカートリッジの互換品を製造販売しているエレコム社は自社製インクカートリッジが使用できなくなり、廃棄を余儀なくされたとのことです。エレコム社は違法な抱き合わせ販売に当たるとして、ブラザー社を相手取り設計変更の差止と損害賠償を求め提訴しておりました。ブラザー社側は価格が安い互換品が売れればプリンター製造業者への経済的打撃が大きくなると反論していたとされます。
抱き合わせ販売とは
一般指定10項によりますと、不当に商品または役務の供給に併せて、他の商品または役務を購入させることは不公正な取引方法の抱き合わせ販売として禁止されております(独禁法19条)。違反した場合には、公取委は事業者に対して行為の差止や契約条項の削除その他必要な措置を求める排除措置命令を出すことができます(20条1項)。現時点では課徴金の対象とはなっておりません(20条の2以下参照)。本来複数の製品を組み合わせて新たな価値を加えて提供することは技術革新・販売促進の手法として直ちに問題となるものではありません。しかし、ある商品の供給に併せて他の商品の購入を強制することは市場での競争阻害を招くとして違法となる場合があります。以下具体的に見ていきます。
行為要件
ある商品に併せて購入させる「他の商品」とは、それ自体が独立した商品であり、本来独立して取引の対象となっているものを言います。公取委のガイドラインでは、それぞれの商品について、需要者が異なるか、内容・機能が異なるか、需要者が単品で購入することができるか等の観点から総合的に判断されるとされております。そして「購入させること」とは、ある商品の供給を受けるに際して、客観的にみて少なからず顧客が他の商品の購入を余儀なくされるかで判断されるとされます。本来同時に購入する必要がない商品をいっしょに購入しなければ、必要な商品の購入ができない状況であることが必要ということです。
公正競争阻害性
上記の抱き合わせ販売は「不当に」行なわれる必要があります。この不当にとは公正競争阻害性を意味します。抱き合わせにおける公正競争阻害性とは、顧客の商品・役務の選択の自由を妨げることと、抱き合わせられる商品・役務の市場での自由な競争を減殺させることの2つのタイプに分けられると言われております。抱き合わせによって取引相手は他の選択肢が奪われることとなり、また抱き合わされる商品の市場では互換製品を製造販売している競合他社が排除され、競争が減少していくこととなるということです。実際に競争の減殺が認められた例としては、当時シェア1位であったエクセルに、1位ではなかったワードを抱き合わせた例や、エレベーターに系列会社の保守点検サービスを抱き合わせた例などが挙げられます。
コメント
本件でブラザー工業は自社製プリンターの仕様を変更し、純正インクカートリッジ以外は認識しないように変更したとされます。これにより互換品を製造販売していたエレコム社は自社製カートリッジの廃棄を余儀なくされたとのことです。東京地裁は今回の仕様変更を、市場シェア率が高い互換品の販売を困難にするためであるとして、正当性は無く公正な競争を阻害すると判断しました。この種の訴訟で互換品業者が勝訴するのは珍しいとのことです。以上のように独禁法では本来別々に購入できるものの購入を強制する行為は違法としております。本件のように純正品以外使用できなくするといった変更も該当しうると言えます。製品の仕様を変更する際には、この点にも留意して他社製品を排除しないよう注意することが重要と言えるでしょう。
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