東京機械とアジア開発キャピタルによる攻防戦、買収防衛策とその対策について
2021/09/06 戦略法務, M&A, 会社法, その他
はじめに
現在アジアインベストメントファンドおよびアジア開発キャピタルが東京機械製作所の株式取得を進める中、東京機械側が対抗措置を検討していることがわかりました。10月下旬の臨時総会で承認を得るとのことです。今回は買収防衛策とその対策について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、アジアインベストメントとアジア開発キャピタルは、新聞輪転機大手の「東京機械製作所」の株式取得を進めており、7月21日時点で保有比率が32.72%にいたっているとされます。アジアインベストメント側が提出した大量保有報告書によれば、株式の保有目的は支配権の取得であるものの、現時点では取締役候補の派遣は予定していないとのことです。これを受け東京機械側は対抗策として、一定の保有割合を超える大規模買付者を除く株主であることなどを条件とする新株予約権無償割当を行うとしております。新株予約権1個当たりの割当株式数は別途定めるとし、行使に際しての出資額は1円となっております。
敵対的買収とは
敵対的買収とは、買収の対象となる会社の経営陣や大株主等の事前の合意を得ることなく、会社の支配権の取得等を目指して大規模に買付を行うことを言います。株式公開買付(TOB)によることも多いですが、子会社などのグループ会社を使って株式市場から買い集める場合も多いとされます。これに対し経営陣等と事前に合意した上で組織再編の一環として行われるのが友好的買収です。これらの買収はいずれも法的には何ら問題が無い適法な投資戦略と言えます。しかし買収される企業側からすれば、経営方針や経営陣の大規模な変更を余儀なくされ、安定的な企業運営を脅かす場合も多いと言えます。そこで旧来から多くの買収防衛策が講じられてきました。以下簡単に具体例をおさらいしていきます。
各種買収防衛策
(1)ポイズンピル
敵対的買収防衛策としてよく利用されているのがポイズンピル(毒薬条項)です。これはライツプランとも呼ばれ、予め定めた条件が発生した場合に、時価よりも安く新株を取得できる新株予約権を既存の株主に割り当てておくというものです。すでに敵対的買収が行われている場合には、買収者は権利を行使できないといった条件を付けておくことが多いといえます。
(2)黄金株
次に黄金株です。これは拒否権付種類株式のことで、一定の重要な議案についてはこの種類株式の株主の意向で拒否できるというものです。これにより買収関連の議案を阻止できます。しかし黄金株は株主平等原則などの観点からも好ましくないとされ東京証券取引所も否定的で現在はほとんど利用されておりません。
(3)ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートとは、買収される会社の役員の退職金を高く設定することにより、買収意欲を低下させようとする方法です。通常敵対的買収が成功した際には、買収された側の会社の旧経営陣は退陣することが多いと言えます。その際高額な退職金を設定しておけば買収した会社が高額な負担を強いられることになるということです。
(4)プットオプション
プットオプションは一定の条件が発生した場合に、株式の買取や債権の弁済を請求することができる権利です。買収が行われた際に多くの株主や債権者から請求が発生することになり、敵対的買収の抑止力となるとされております。
(5)ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的買収が発生した際に、友好的な第三者によって株式を取得してもらい、敵対的買収者に対抗してもらうというものです。白馬の騎士からこのような名前が付いております。第三者割当増資や第三者との株式交換によって行われることもあります。
(6)クラウンジュエル
クラウンジュエルとは、買収会社が欲している自社の事業や資産を売却してしまい、企業価値を低下させることによって買収意欲を低下させるというものです。王冠の宝石を外してしまうということです。いわゆる焦土作戦であり企業価値を自ら大きく損なわせてしまうことから日本でこの手法が使われた例は無いと言われております。
新株予約券発行差止
新株予約権の発行に際しては、その発行が法令または定款に違反する場合、または著しく不公正な方法による場合には、株主は発行の差止を請求することができます(会社法247条)。著しく不公正とは新株発行差止の場合と同様にいわゆる主要目的ルールに拠ります。発行の主要な目的が会社支配権の維持といった場合は不公正というわけです。しかし裁判例では主要な目的が経営権維持であっても敵対的買収に対する防衛であり、ひいては株主全体の利益となる場合は正当化される場合があるとしております(東京高裁平成17年3月23日)。
コメント
本件では東京機械製作所はアジアインベストメント社やアジア開発キャピタル社によりすでに32%以上の株式が取得されていることから、その対抗策として条件付新株予約権の無償割当を予定しております。これに対してアジア開発キャピタル社は今回の対抗措置は差別的であり株主平等原則などにも反するものとして、対抗措置がこのまま実行されるのであれば新株予約権無償割当の差止を東京地裁に申し立てる方針であるとしております。今後両者の話し合いが決裂すれば訴訟に発展していくことが予想されます。以上のように近年海外ファンド等による日本企業の買収が活発化しており、それに伴って対抗策やそれに対する訴訟も増加傾向にあります。どのような対抗策があるのか、またそれに対して相手側はどのような対応に出てくるかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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