EUのAI規制案 各国への影響は
2021/07/14   海外法務, 外国法, その他

はじめに

 欧州連合(EU)が、AIの信頼性とEU市民のプライバシー保護を目的とした新しいAI規制枠組み規則案(AI規制案)を今年4月に公開しました。AIがもたらす特定のリスクに取り組み世界最高の標準を設定すべく、バランスの取れた柔軟な規則を標榜しています。AIを取り扱う事業者等に多大な影響が生じると考えられることから、改めて内容を確認したいと思います。

 

事案の概要

 AIの規制については、従来は業界団体や企業に対して倫理ガイドライン等の緩やかな規制を及ぼしているに過ぎませんでした。確かにAIは業務効率化等に貢献するものの差別や偏見の助長のおそれがあるため、EUが4月に世界初の包括的なAIの規制案を公表しました。

 かかるAI規制案に対して、欧州産業界からは、リスクの低減を志向した方針に賛成しつつも企業の負担増やイノベーションの阻害を危惧する声が上がっていました。

 

AI規制案の内容

 まず、AI規制案の目的はAIに対する使用者の信頼の醸成及びAI利用に関する法的安定性やEU加盟国での規制の調和を図ることで、AIの普及をさせることにあります。そして、AI規制案は民間・公的機関かを問わず、EU域内の利用者はもちろんのことEU域外のAIシステム提供事業者や利用者にも適用されます。

 また、利用目的に応じてリスクの多寡を区別し、リスクごとに規制を設けています。

具体的には、
①政府が個人の信用力を格付けする信用システムの運用のためのAIの利用等、基本的人権に反し容認できないリスクに対しては原則としてAI技術の使用が禁止され、

②医療・教育等の重要なインフラに用いられ基本的人権に悪影響を及ぼすリスクがあるAIシステムの提供事業者には提供前後で品質・リスク管理義務を課せられ、

③上記規制以外のAIシステムの利用に対しては新たな規制は及ぼされないものの、人とかかわることを前提に開発されたシステム等を提供する場合には、AIシステムが利用されていることを開示する義務を課しています。

上記規定に違反した場合には最大で3000万ユーロ又は前年度総売り上げの6%の罰金を科しています。

 

AI規制案の本国への影響

 まず、EUでAIを駆使した事業を営む日本企業はAI規制案が法案として実現した場合、その影響を直接的に受けます。また、AIをEUへと提供している事業者も同様です。

 次に、EUのAI規制への動きを受けて日本でも同様あるいは類似した法案が成立するかもしれません。また、EUでのAI規制の煽りを受けた企業が取引先にいるような場合に当該取引先との関係を再考しなければならなくなるかもしれません。このような間接的な影響が生じることもありえます。

 

コメント

 AI規制案は現状ではあくまで案に過ぎず、実現まで数年はかかると予測されます。実際に法案として成立するまでの間にどれほど対応策を講じられているかによって企業間に格差が生じることでしょう。

 EUのAI規制に関連する企業の法務従事者としては、来る法案の成立に備えてEUのAI規制の内容を的確に把握し、その影響について予測し、いかなる対応をすべきか予め考えておくべきでしょう。また、EUのAI規制とは直接関係しない企業法務従事者であっても、自社に全く影響が及ばないのか、精緻に予測する必要があるでしょう。

 

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