報酬決定 日産の権限集中問題
2021/07/09 商事法務, 金融商品取引法, 会社法, その他

はじめに
金融商品取引法違反に問われた日産元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(64歳)の公判が7日、東京地裁で開かれました。当該公判において、日産の内田誠社長(54歳)が証人として出廷しました。
グレッグ・ケリー被告は、日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(67歳)の役員報酬の内、計約91億円を有価証券報告書に記載しなかった被疑事実に基づき起訴されています。
事案の概要
内田社長は法廷において、役員らトップの報酬はゴーン氏が決めていたものの、報酬決定の具体的な基準は説明されておらず、またゴーン氏は絶対なカリスマリーダーであるため、会議でも他の者はゴーン氏に反対の意見を言えない雰囲気であったと明らかにしました。このような専制的な地位に基づき役員報酬を決めており、有価証券報告書の虚偽記載に関与していた疑いがあります。
役員の報酬決定方法
役員の報酬決定は、
①全役員に支払う役員報酬の総額を株主総会において設定(会社法361条、309条1項)
②役員ごとの報酬内訳を取締役会に一任、又は一任された取締役会から代表取締役に再一任し設定(最判昭和39・12・11民集18巻10号2143頁、最判昭和58・2・22判時1076号140頁)
③取締役会で各役員の報酬を設定した範囲内で決定
以上3つの段階を経て行われます。
役員報酬を一任・再一任する弊害
個別の役員報酬を取締役会に一任、又は代表取締役に再一任することの弊害として、絶対的な影響力を持つ役員がいる場合にその者の恣意的な影響を受けて役員の個別報酬が決定されてしまうことが挙げられます。
つまり、上記③のフェーズにおいて、株主総会で決められた報酬の総額という限られたパイの中から役員報酬の配分が行われるにあたり、役員間のパワーバランスが保たれていなければ特定の者の報酬だけ如実に多くなる危険性があるということです。なお、役員間の報酬の格差は実績等に比例していれば当然認めるべきとも思われるため、一概に非難できる問題ではありません。
コメント
ゴーン氏は2013年度に9億8800万円という日本企業トップの役員報酬を受けており、世間から高額報酬に対する非難を浴びていました。その時にゴーン氏は報酬額が実績と連動していれば報酬が高くても納得できる旨を述べており、その意見に関しては筆者も同感であります。
ただ、未だ事実かは明らかとはなっていないものの、社内での絶対的な影響力を前提とした自身の報酬決定が事実であるならば、実際の報酬額が実績に比して高すぎるかは置いておいても、実績いかんに関わらず自らの報酬を実績以上のそれに設定しうる環境ではあったと評価できます。脱法行為をするのに誘惑的な環境が、有価証券報告書の虚偽記載を招いたのではないかと思われます。
企業法務従事者としては、報酬額の妥当性判断はしかねると思われますが、役員の報酬決定手続が法に則り適宜履践されているか今一度確認し、有価証券報告書の記載に誤りがないように注意しましょう。
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