最高裁がみずほ証券の免責認めず、金商法上の虚偽記載責任について
2020/12/24   金融法務, 金融商品取引法, 金融・証券・保険

はじめに

上場企業の粉飾決算で損失を受けた株主が主幹事証券会社であるみずほ証券に損害賠償を求めていた訴訟の上告審で22日、最高裁はみずほ証券の免責を否定していたことがわかりました。みずほ証券側の調査が不十分であったとのことです。今回は金商法が規制する虚偽記載責任について見直して行きます。

事案の概要

 かつて神奈川県に存在していた半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」が2009年に東証マザーズに上場する際、実際には2億円程度であったにもかかわらず同年3月期の売上高を118億円としておりました。翌2010年に発覚し上場廃止および破産手続が開始され、その後2014年に手続終了とともに法人格消滅にいたったとされます。これにより損失を被った株主約200人が旧経営陣、証券取引所、主幹事証券であったみずほ証券を相手取り損害賠償請求訴訟を提起していたとのことです。なお旧経営陣はすでに金商法違反により実刑判決と約1億7500万円の損害賠償命令を受けております。

虚偽記載責任

 金商法上、有価証券報告書や四半期報告書の提出義務を負っている会社が、これらの報告書に虚偽の記載をした場合、いわゆる粉飾決算として刑事罰の対象となります。10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となり、法人にも7億円の罰金が規定されております(197条1項1号、207条)。また株式の市場価格の0.006%の課徴金納付命令を受ける場合もあります(172条の4)。これまでも取り上げたように粉飾決算を行った場合は会社にも経営陣にも重いペナルティが課されることとなり、上場廃止となる可能性が高いと言えます。

株主への責任

 有価証券報告書などへの虚偽記載により損失を受けた株主は損害賠償請求を行うことができます。これについて金商法ではその責任の主体や責任の態様を詳細に規定しております。まず株式の発行や上場段階での虚偽表示については責任の主体は発行会社、役員等、監査法人等、引受証券会社等となっております。そしてすでに流通している株式については発行会社、役員等、監査法人等となっております(17条~24条の5)。いずれの場合も発行会社は無過失責任を負っており、過失がなかったことを証明しても責任を免れることはできません。

証券会社等の免責

 上記の通り発行会社自身は無過失責任を負っておりますが、その他の責任主体である役員等や引受証券会社は故意過失が無いことを立証した場合には免責されます(21条1項4号、2項3号)。本来損害賠償請求の場合、原告側が損害や被告の故意過失、因果関係などを立証していくこととなります。しかし金商法の虚偽記載の場合、株主は虚偽記載と損害を立証すれよく、被告側である証券会社や役員等が自己の故意または過失がなかったことを立証する責任を負っているということです。これは一般的に立証責任の転換と呼ばれます。発行会社の財務状況などを適切に調査を尽くしていたということを証明する必要があるということです。

コメント

 本件で二審東京高裁は主幹事証券であったみずほ証券の免責を認めておりました。しかし上告審で最高裁は同社の調査が不十分とし免責を認めませんでした。粉飾を指摘する投書を2度に渡って受け取っていたにもかかわらず、エフオーアイ側に資料提出を求めたり、監査した会計士に事情聴取するといった調査を怠っていたとのことです。以上のように粉飾決算が行われた場合にはその会社や役員等だけでなく、監査した会計士や監査法人、株式を取り扱った証券会社にも株主に対し賠償責任を負う可能性があります。誰にどのような規制が設けられているかを正確に把握し、社内で適切に記載が行われているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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