感染を理由とする解雇禁止へ、コロナ関連解雇について
2020/11/24 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
新型コロナウイルスに感染した患者や家族、医療従事者への差別を禁止する議員立法案が自民党部会で了承され、臨時国会に提出される見通しとなりました。
法案では感染を理由とする解雇や出社拒否を禁止する内容も含まれているとのことです。今回はコロナを理由とする解雇について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、今回臨時国会に提出予定とされるコロナ差別解消法案は、実際に新型コロナに感染経験のある自民党の高鳥修一衆院議員が中心となってとりまとめたとされます。
高鳥議員は新型コロナ関連の経済対策に従事する立場で常時消毒液を携帯するなど感染対策には強く気を配っていたにもかかわらず病院での検査で陽性と判定されたとのことです。感染は自己責任と断じることは出来ず、また感染者や関係者へのバッシングや差別を防止する必要性を痛感したとされます。
法案では新型コロナ感染を理由とする解雇、出社拒否や医療従事者への差別取り扱いの禁止、国や自治体による啓発活動などが盛り込まれております。罰則規定は含まれておりません。
新型コロナを理由とする整理解雇
新型コロナウイルスの影響により業績が悪化し従業員を解雇せざるを得ない状況にある企業は少なくないとされます。それではこのような場合に解雇は可能なのでしょうか。
労働契約法19条によりますと、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」解雇は権利濫用として無効とされております。そして判例では整理解雇の場合は、
①人員削減の必要性
②解雇回避努力が尽くされたこと
③被解雇者選定の妥当性
④手続き履践の妥当性
の全てを満たした場合は適法となります。コロナによる場合もやはりこれらの要件を満たす必要があると言えます。
コロナ感染の疑いがある従業員への対応
発熱など新型コロナウイルス感染が疑われる従業員がいる場合はやはり自宅待機してもらうこととなります。
新型コロナウイルスは指定感染症に指定されているため、自宅待機中の休業手当は法的には不要とされますが、熱があるだけで感染しているかが不明である時点では賃金の6割の休業手当を支払うか、年次有給休暇を取得してもらうことが妥当と言われております。
なお従業員が高熱で出社できない場合は労務提供不能であり、コロナ感染でなくとも休業手当の支払いは不要とされます。症状が無くなった後でも慎重を期して1週間程度は自宅待機してもらうことが望ましいと考えられます。
コロナ感染の従業員の解雇
上記整理解雇は厳格な要件のもと、従業員側に非がなくても解雇できる非常に例外的な場合と言えます。それではコロナに感染したことを理由として懲戒解雇は可能でしょうか。
労働契約法15条では、「行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇は解雇権濫用として無効とされます。
また就業規則での規定も必要です。一般的に懲戒事由とされるのは、横領や窃盗などの刑法犯、セクハラやパワハラ、経歴詐称などと言われております。単純にコロナに感染したというだけでは懲戒事由には該当しないと言えます。
また会社側の自粛や外出禁止などの指示に従わずに感染した場合も同様に難しいと言えます。しかし法的な自粛命令や外出禁止命令に違反して感染した場合は懲戒事由になる可能性はあると言えます。
コメント
今回自民党の議員立法として成立が目指されているコロナ差別解消法は罰則規定は無いものの、コロナ感染を理由とする解雇や差別的取り扱いなどが禁止されます。
上記のように現行法上、コロナを理由とする解雇も基本的には通常の場合と同様に労働契約法の規定や判例法理に基づいて判断されます。コロナによる業績悪化の場合は、人員削減の必要性は認められる可能性は高まりますが、解雇回避の努力や人員の選択、また労働者への真摯な説明や説得などの対応状況が重要なのも通常の場合と同様です。
またコロナ感染を理由とする懲戒解雇は非常に困難と言えます。本件議員立法が成立した場合はより難しくなることが予想されます。従業員が感染した場合にはこれらの点に留意しつつ、厚労省や社労士などの専門家の意見を参考に、従業員と十分に話し合うことが重要と言えるでしょう。
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