最高裁が日本郵便訴訟で不合理認定、判例から見る同一労働同一賃金
2020/10/19   労務法務, 労働法全般, サービス

はじめに

最高裁は15日、日本郵便の非正規職員に扶養手当などが与えられていないのは不合理であるとの判決を出しました。先日の東京メトロ、大阪医科薬科大事件判決とは対照的な結果となっております。今回は先日も取り上げた同一労働同一賃金について最高裁判決から見直していきます。

事案の概要

 本件は日本郵便で業務する契約社員ら12人が東京地裁、大阪地裁、佐賀地裁にそれぞれ提訴した事例で、正規職員には与えられている各種手当が契約社員には与えられていないのは不合理であるとして是正を求めていたものです。問題となった手当は年末年始勤務手当、扶養手当、夏期・冬季休暇などです。一審地裁判決は年末年始勤務手当、扶養手当については不合理な格差とされましたが、二審高裁判決では扶養手当については不合理ではないとされておりました。

同一労働同一賃金の原則

 同一労働同一賃金の原則については先日も取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。今年4月1日から施行されました改正パートタイム・有期雇用労働法8条(旧有期雇用労働法20条)によりますと、正規社員と非正規社員で、①業務内容・責任、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇格差を禁止しております。また①と②が同一である場合は差別的取扱いが禁止されます(9条)。最高裁も原則として個々の事例ごとにこれら3要素を精査して不合理な格差となっていないかを判断するものとしております。また事業者には労働者に対し求めに応じて待遇決定に際しての考慮事項について説明義務が課されており、それにより不利益取り扱いも禁止しております(14条1項~3項)。

これまでの最高裁判決

(1)ハマキョウレックス事件

 ハマキョウレックス事件最高裁判決(最判平成30年6月1日)は正規非正規の待遇格差問題におけるリーディングケースと言われております。最高裁は各種手当の合理性を判断するにあたり、それぞれの趣旨・目的を個別に考慮してそれが正社員だけでなく非正規社員にも当てはまるにもかかわらず支給されていない場合は不合理であると示しました。その上で通勤手当、皆勤手当、給食手当、作業手当、無事故手当について不合理としました。

(2)長澤運輸事件

 上記ハマキョウレックス事件と同じ日に判決が出た長澤運輸事件最高裁判決(最判平成30年6月1日)では、定年退職後に再雇用されたという事情が③「その他の事情」として考慮され得ることを示したものです。定年後の再雇用では長期雇用することが予定されていないこと、定年までは正社員としての待遇を受けていたこと、老齢厚生年金も用意されていることなどを考慮して再雇用労働者には歩合給とし大幅に減収したとしても不合理ではないとしました。

本件での最高裁の判断

 本件で最高裁は、年末年始勤務手当、扶養手当、夏期・冬季休暇手当、有給病気休暇、祝日手当の5つについて契約社員に与えないのは不合理であると認めました。扶養手当については、その趣旨・目的を「生活保障や福利厚生を図り、生活設計を用意にさせ、継続的雇用を確保すること」とし、契約社員も実際には契約が更新されており、人事異動の差異を考慮しても継続雇用確保の趣旨は当てはまり不合理としました。また年末年始手当や夏期・冬季休暇手当も再繁忙期に忙しいのも、心身の回復で雇用継続確保の趣旨が当てはまるのも正規・契約社員で異ならないとして不合理としました。

コメント

 先日の東京メトロ、大阪医科薬科大の判決では退職金およびボーナスの支給をしないことは不合理ではないと判断されました。それらの趣旨を正社員の長期雇用確保としつつも、勤務内容や異動の可能性の差異を考慮されたものと言えます。それに対して一転、今回の日本郵便での判決では各種手当の趣旨や目的を精査しつつ、正規と非正規の両者に当てはまるかを細かく判断して不支給を不合理としております。先日の事例と異なり職員の業務内容にほぼ違いがないことや、実質長期雇用となっていることも考慮されたものと思われます。先日の判決で補足意見として述べられていたように、それぞれの個別事情を考慮すれば不合理であるとの判決もあり得ると示されたとおりの判決となりました。今回の判決を予告していたようにも感じられます。自社での各種手当の趣旨や目的を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

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