賃金債権の消滅時効延長への動き
2019/10/29 労務法務, 民法・商法, 労働法全般

はじめに
厚生労働省は2020年4月から施行される改正民法に合わせて労働基準法で定める賃金の消滅時効を延長する検討に入りました。
まずは3年への延長を目指すとのことです。
今回は民法と労基法の賃金債権の消滅時効について見ていきます。
事案の概要
平成29年(2017年)に成立した改正民法が来年令和2年(2020年)4月1日から施行されます。
それにより現行民法の短期消滅時効の制度が廃止され、消滅時効は5年に統一されることとなります。
本来労働者保護の観点から民法の短期消滅時効よりも長い時効期間を定めていた労働基準法の消滅時効の期間が民法よりみ短くなるといった不都合が生じることとなります。
そこで厚労省ではかねてより民法改正に合わせて労基法の時効期間を延長するべく議論がなされてきました。
将来的には5年への延長を視野に、当面は3年への延長を目指すとのことです。
現行民法の消滅時効
現行民法での消滅時効は原則として債権が10年、それ以外の財産権は20年となっております(167条1項、2項)。
例外的に一定の債権についてはそれよりも短い短期消滅時効が定められております。
まず地代や家賃などの債権は5年(169条)、医師などの診療費、工事の請負代金債権、弁護士、公証人の職務上預かった書類に関する責任、不法行為賠償責任は3年(170条、171条、724条)、弁護士費用、生産者、卸売商人、小売商人の売買代金債権、理髪、美容などの技能職債権、塾や家庭教師などの教育費用は2年(172条、173条各号)、労働者の給料債権、労力や演芸による報酬債権、運送賃、旅館、飲食店、娯楽施設などの料金債権などは1年となります(174条各号)。
労働基準法による修正
上記の通り労働者の給料債権は民法では1年の短期消滅時効が適用されることとなっております。
しかし労働者保護の観点から労働基準法によって賃金や災害補償その他の債権は2年に、退職金などの債権は5年に延長されております。
つまり労働者は残業代などを請求するときは2年分しか遡って請求することはできないということです。
改正民法による変更
改正民法では消滅時効の時効期間は権利行使できることを知った時から5年、権利を行使できるようになった時から10年となっております(改正民法166条1号、2号)。
人の生命・身体の侵害による損害賠償債権については不法行為、債務不履行を問わず権利行使できることを知った時から5年、権利発生から20年となっております(改正民法724条の2、167条)。
そして短期消滅時効の規定は廃止され5年に統一されることとなります。
コメント
以上のように現行法において給料債権の消滅時効は民法で1年、労基法適用によって2年となっておりました。
しかし来年4月から施行となる改正民法では5年となり労基法よりも長いことになります。
労働者保護のために民法よりも延長した時効期間が改正後の民法より短いこととなり不都合が生じてきます。
そこで厚労省では労基法でも民法に合わせて5年に改正すべきとの声が上がっておりました。
しかし一方でこれまで遡って請求できる未払い賃金が2年分だったものが5年分となると企業側への負担が増加することから反発の声も上がっておりました。
そこで厚労省は当面3年への延長を目指すとしています。
このように民法改正に合わせて労基法など周辺法令への影響も出てきております。
改正点を正確に把握して労務管理を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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