丸八真綿の元子会社社員が提訴、偽装請負とは
2019/07/17   契約法務, コンプライアンス, 民法・商法, 労働法全般, 労働者派遣法

はじめに

 寝具メーカー「丸八真綿販売」の子会社「ハッチーニ丸八」(横浜市)の元社員ら16人が先月25日、不当な業務委託契約を結ばされ、事務手数料や経費を負担させらたとして両社を相手取り提訴していたことがわかりました。原告側は違法な偽装請負だと主張しています。今回は偽装請負について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ハッチーニ丸八の元正社員らは1990年~2012年までに販売成績を理由に業務委託契約に切り替えられ、個人請負の委託販売員として働かされたとされます。原告側の主張では営業用の車のリース代やガソリン代、事務手数料なども負担させられ月7~9万円が報酬から天引きされ給料がマイナスになる者もいたとのことです。委託販売員になっても業務内容は正社員と変わらず、ノルマを課せられ、出退勤管理がなされ、報酬額もハッチーニ丸八が決定していたとされ、違法な偽装請負に当たるとして過去10年分の経費など計約1億7800万円の変換を求めています。

 

偽装請負とは

 偽装請負とは、形式上は請負契約や業務委託契約となっているが、実態は労働者派遣などであるものを言います。労働者を直接正社員として雇用するより、個人として請負や委託契約したり、関連会社の社員にして請負や委託契約を締結するほうが会社としては負担が小さく、使用者としての責任も回避することができます。一方で労働者からすれば正社員としての権利や保障が受けられず不安定で不利な地位に立たされることとなります。しかしこのようないわゆる偽装請負は職業安定法や労働者派遣法に違反することとなります。

 

偽装請負となる要件

 職業安定法施行規則4条1項によりますと、「労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる」場合は、たとえその契約の形式が請負契約であっても、以下のすべてに該当しなければ請負とは言えず労働者供給事業者とみなされます。
①作業の完成について事業主として財政上、法律上の全ての責任を負う。
②作業に従事する労働者を指揮監督する。
③作業に従事する労働者に対し、使用者として法律上の全ての義務を負う。
④自ら提供する機械、設備、器材、材料、資材を使用し、専門的な技術・経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的労働力を提供するものでないこと。
 そしてこれらの4要件に該当する場合でも、法を潜脱することを目的として故意に偽装されたものである場合には違法な偽装請負とみなされることとなります(同2項)。

 

違反した場合

 労働者との契約が形式上請負や委託となっていても、実態が派遣や労働者供給である場合には職業安定法や労働者派遣法違反となります。労働者派遣法違反では1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(59条2号)。職業安定法でも同様に1年以下の懲役または100万円以下の罰金となっております(64条9号)。それ以外にも労働基準法の中間搾取禁止などの各種規定に抵触する可能性があると言えます。

 

コメント

 実際にあった偽装請負の事例では、自動車部品メーカーの工場に請負として派遣されていた労働者が怪我をしたにもかかわらず労災報告をしなかったとして労働局から指導をうけた例があります。また精密機器メーカーで実際には直接使用されていたにもかかわらず請負として働かされていた労働者が正社員の地位確認を求め提訴した例も存在します。これらに共通するのはいずれも請負と言いながら直接の指揮監督を受けていた点です。本件でも原告側が実際にはハッチーニ丸八の指揮監督のもとに労働していたかが主な争点となると考えられます。偽装請負は責任の所在をあいまいにし、経費などの負担を免れることができるといった目的で行われることが一般的ですが、上記のとおり各種法令で厳格に規制されております。自社で請負契約を締結している場合には、その労働者を直接指揮監督していないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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