信組に賠償命令、念書の効力について
2018/03/23 契約法務, 訴訟対応, 民法・商法

はじめに
日経新聞電子版は20日、秋田県の不動産賃貸業者が念書を盾にマンションを高額で落札させられたとして、秋田県信用組合を相手に約3億円の債務不存在確認を求めていた訴訟で秋田地裁は5000万円の不存在を認定しました。一定額以上で入札するという内容の念書を無効としたものです。今回は念書の法的効力について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の秋田県内の不動産賃貸業者は2010年に秋田県信用組合の部長からマンションの競売物件を紹介されました。その際信用組合側は賃貸業者に対し「2億5千万円以上で落札する」という内容の念書を書くよう求めたとされます。業者側はそれに応じ念書を書いたものの、後日裁判所からマンションの評価額は6千万円弱であるとの通知を受け、信用組合側に入札額を下げたい旨伝えたところ、「約束通り入札してもらわなければ困る」と拒否され2億5千万円で入札したとのことです。賃貸業者側は約3億円の債務不存在確認を求め提訴していました。
念書とは
念書とは一般的に当事者間の約束事を念の為に書面にして差し入れたものと言うことができ、誓約書も念書の一種と言えます。念書は様々な場面で用いられ、隣人同士のトラブルや夫婦間の不貞問題から企業の不動産取引や従業員との労働契約などにも使用されます。従業員が退職した際に同業他社への就職などを制限する競業避止義務を定めた誓約書などもこれに当たると言えます。それではこのような念書に法的効力は認められるのでしょうか。法的効力が有ればそれに基づいて義務の履行や債務不履行による損害賠償などを求めることができると言えます。
念書の法的効力を認めた判例
法的効力を認めたものとして次のような事例があります。ある借地を転借し、その上にスーパーマーケットを建築して運営していた業者を債務者兼設定者として銀行がそのスーパーマーケットに根抵当権を持っていた事案で、銀行がそのスーパーマーケットが所在している土地の所有者と転借人、債務者である業者に書かせた「地代不払い、無断転貸などの借地権の消滅を来すおそれのある場合は通知し、借地権の保全に勤める」旨の念書の有効性が問題となったものです。最高裁は、当事者が十分に内容を検討する機会が与えられ署名押印したのであるから、不払いが生じた場合は遅くとも解除までに通知するとの合意があったとし、信義則に反する特段の事情が無い限り有効としました。また念書作成の経緯、当事者の立場、契約解除に至った経緯など諸般の事情から信義則違反にも当たらないとしました(最判平成22年9月9日)。
念書の有効要件
上記判例からも見えてくるように、念書の内容を当事者が納得した上で作成したのであればその内容の合意があったことになり、それによる請求が信義則に反しなければ有効としています。そしてその前提として念書の内容が各種法令や公序良俗(民法90条)などの一般条項に違反しないことが当然に必要であると言えます。つまり念書も一種の当事者間の合意であり、契約書などの他の文書と変わるところは無いと言えます。有効な念書は訴訟において契約書などと同様に証拠となるということです。
コメント
本件で秋田地裁は、信用組合側に「原告が適正と考えた価格で入札できると説明すべき信義則上の注意義務があった」とし「2億5千万円以上で入札する」旨の念書は無効としました。入札額を高値に拘束する内容の念書は、当事者の立場や経緯など諸般の事情から信義則に反し、あるいは公序良俗に違反し無効と判断されたのではないかと考えられます。以上のように念書は内容も適正でなくてはなりません。相手方を一方的に不利な立場に立たせるもの、例えば労働法に反する給料からの天引き、残業代不請求などの念書を従業員に書かせるといったものも無効となると考えられます。念書は企業間の取引や行政指導など様々な場面で用いられることがあります。念書作成の際には内容は十分に吟味し、法令違反等は無いか、信義則に反しないかなどを十分に注意して作成することが重要と言えるでしょう。
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