東京高裁が直接の相手以外へのパワハラを認定
2017/10/20   労務法務, 労働法全般

はじめに

医療機器メーカーの販売子会社で働いていた50~60代の女性4人が代表取締役の男性からパワハラを受けていたとして損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で東京高裁は18日、会社と男性に660万円の支払いを命じていました。パワハラの直接の相手だけでなく、その部下に対してもパワハラの成立を認めています。今回はパワハラの要件について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、医療機器メーカー「フクダ電子」(長野)の販売子会社に努めていた元従業員の女性4名は2013年4月頃から当時代表取締役に就任した男性から繰り返しパワハラを受け同年9月までに退職していたとのことです。「50代はもう性格も考え方も変わらない」「50代は転勤願いを出せ」「辞めてもいいぞ」などと侮辱的発言を受けていました。これらの発言を直接受けていたのは4名のうちの係長であった2名であったとされております。4名は男性と同社に対し慰謝料など計約1700万円の支払いをもとめ提訴、一審東京地裁は約360万円の支払いを命じておりました。

パワハラの要件

パワーハラスメント(パワハラ)とは、厚生労働省の定義によりますと、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされます。つまりこの定義から導き出される要件として①対象は同じ職場で働く者、②職場内の優位性を背景としていること、③業務の範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えること、または職場環境を悪化させるとことなります。同じ職場内で優位に立っていれば成立することから、かならずしも上司から部下に限られず、同僚同士、部下から上司ということも有りえます。そして③の精神的・身体的苦痛を与えているかについての判断は裁判例によりますと「平均的な心理的耐性をもった人」を基準として客観的に判断するとしています(福岡高判平成20年8月25日)。パワハラを受けていた人がたまたま精神的に特に弱い場合や、逆に強い場合などが有りえますが、その人を基準とするのではなくあくまで一般的な感覚を基準とするということです。

パワハラの法的性質

では上記要件を満たすパワハラが存在したとして、法的にはどのように扱われるのでしょうか。一般的にパワハラが発生した場合、慰謝料等の損害賠償請求がなされます。その根拠としては民法上の不法行為(709条等)や労働契約に付随する安全配慮義務によることになります。安全配慮義務とは判例によりますと、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務」とされます(最判昭和50年2月25日)。一種の債務不履行責任であり、パワハラの場合は労働契約に信義則上付随する義務ということになります。それ故にパワハラに限らず労災や過労死といった場合も当てはまります。現在は労働契約法5条に明文化されております。

パワハラの6類型

厚労省は現在、裁判例などをもとにパワハラを6つの類型に分類しております。①暴行・傷害などの身体的な攻撃、②脅迫・名誉毀損・侮辱などの精神的攻撃、③隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離し、④業務上明らかに不要なことや遂行不能なことの強要といった過大な要求、⑤逆に業務上の合理的理由なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を与えるなどの過小要求、⑥私的なことに過度に立ち入る個の侵害が挙げられております。これらはあくまで主だったものを類型化したにすぎず上記要件に該当すればあらゆる態様がパワハラになりうることになります。

コメント

本件で代表取締役の男性は2名の女性従業員に対し「人間50代になれば考えなんて変わらない」「給与が高すぎる、50代は会社にとって有用ではない」などと侮辱的発言を繰り返しておりました。これは精神的攻撃に当たり、平均的な心理的耐性をもった人からしても精神的苦痛を受けるものと言えます。そして本件での一番の特徴はその2名の従業員の部下にあたり、直接侮辱発言を受けていなかった2名についてもパワハラを認定したことにあります。東京高裁は「同じ職場で言動を見聞きしているから、今後自分たちにも同じような対応があると認めるのは当然」とし2名の退職について会社都合退職に当たるとしました。つまりいずれ自分たちもそのような扱いを受けると思わせた場合、間接的にパワハラになることを認めたと言えます。このように裁判所は近年パワハラをかなり広く柔軟に認めております。パワハラが認定されると慰謝料だけでなく、退職理由も会社都合となり退職金相当分の支払いも命じられることになります。どのような場合にパワハラになるかを周知徹底し、従業員のメンタルケアを充実させることが重要と言えるでしょう。

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