有効な退職合意と認められるためにやるべきこと
2017/10/03 労務法務, 労働法全般

はじめに
東京都内の建築会社と、そこで働いていた女性との間でなされた妊娠をきっかけとする退職合意の有無について、自由意思に基づく退職合意があったものといえないとして、東京地裁立川支部は、女性は労働契約上の地位を有しているとの判決(東京地裁2017年1月31日) を下しました。本判決は、近年話題となっているマタハラ問題を企業に考えさせる社会的意義のある判決であると同時に、企業と労働者間で行われる退職合意が有効となるためには、企業側は何をしなければならないのかを強く考えさせる判決だということができると思います。
事案の概要
東京都内の建築業者で建築測量の仕事をしていた女性が妊娠したところ、女性と会社側の話し合いの中で、妊娠中は建築現場での業務を続けるのは難しいという話になり、会社側は派遣業者への登録を提案しました。女性は、会社からの提案を受け、紹介された派遣先で就業することにしたとされています。その後、女性は退職届を提出していないにもかかわらず、会社側から退職扱いになっているとの連絡を受けたとのことです。女性は、自主退職していないとの理由で、会社側の主張する退職合意を否認し、労働契約上の地位の確認を求め、裁判となりました。
判例内容
・妊娠中の退職の合意の有無は、当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認められなければならず、その合理的な理由が客観的に存在するかは、慎重に判断する必要がある。
・会社側の主張する退職合意があったとされる時に、会社側は女性に対して退職手続きを何らとっておらず、産後についてもなんら言及していない。
・産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかった。
・会社に残るか、退職の上で派遣登録するかを検討するための情報がなかった。
・会社側に、自由な意思に基づいて退職を合意したことの十分な主張立証が尽くされているとはいえない、と判断しました。
コメント
日本における出生率が伸び悩んでいる中、子供を産む母親を社会全体で支援していこうという機運が高まっています。本判決は、妊娠中の退職合意が有効であるためには、労働者が自由意思に基づいて合意していなければならないとし、その客観的事実の立証責任を企業側に負担させ、企業にとっては厳しい判決となっています。
本判例に従えば、企業が労働者と有効な退職合意を得たといえるためには、法務担当者と会社がとるべき行動としては、➀就業規則などにある退職に関する内部的決済手続きを進め、➁職場への復帰可能性のない退職であることを労働者に真摯に説明し、理解させた上で、➂任意に労働者から退職届を受理し、➃労働者に辞令を交付する、という手続を経ることが必要であると思われます。
特に、退職合意が企業と労働者の自由意思に基づいていることを立証するのが企業側にある以上、企業からする労働者への説明(➁)においては、実際にどのような説明を行ったのかを、労働者の承諾をとった上で、ICレコーダー等で会話を録音する、又は、説明した内容を記載した文書を労働者にチェックしてもらい、署名捺印してもらう等して記録していくことが必要となるでしょう。
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