M&A手続完了前の先取り行為規制について
2017/08/16 海外法務, 戦略法務, 独占禁止法
はじめに
日経新聞電子版は14日、海外でのM&Aにおける手続完了前の行為規制である、いわゆる「ガンジャンピング規制」について報じています。海外ではM&Aでの独禁法上の手続が完了するまでは、当事会社同士での一定の行為が禁止されている場合があります。今回はガンジャンピング規制について見ていきます。
ガンジャンピング規制とは
ガンジャンピングとは英語でGun-Jumpingのことで、陸上競技などにおけるスタート合図前の飛び出し、いわゆるフライング行為のことを言います。各国の独禁法では本来競争関係にあるライバル企業同士が合併等を行う場合、独禁法上の手続が完了するまでは、営業上の情報交換などの反競争的な行為を禁止する規定が置かれている場合があります。これをガンジャンピング規制と言います。違反した場合には数十億円規模の罰金や課徴金が科されることがあります。海外、特に欧米ではかなり厳格に運用されており、独禁当局の審査の目は厳しいと言われております。
米国におけるガンジャンピング規制
反競争行為に対する規制が厳しいことで知られる米国でもガンジャンピング規制は存在します。米国反トラスト法の一つであるシャーマン法の1条では取引を制限する全ての契約、結合、共謀を禁止しています。競争企業同士の価格カルテルや企業結合など反競争行為を広範に規制している規定です。不当な取引制限を規制する日本の独禁法3条にあたるものです。そして同じく反トラスト法の一つであるクレイトン法の一部改正法であるHSR法の7条では事前届出義務のあるM&Aの当事会社は届出から30日間は不作為期間として手続を進めることを禁止しております。これら2つの法律が米国でのガンジャンピング規制の根拠法と言われております。
米国での届出義務要件
HSR法上米国でのM&Aにおいて独禁当局への届出が必要になる場合は次のとおりとなります。①合併によって取得される資産や株式の価値、すなわち合併の規模が6,520万ドルを超え、2億6,070万ドル以下の場合は一方当事者の総資産または年間売上が1億3,030万ドル以上で他方当事者が1,3000万ドル以上の場合。②合併の規模が2億6,030万ドルを超える場合。これらの場合に司法省と連邦取引委員会に事前届出が必要となります。その後30日、場合によってはさらに20日間は手続を進めることができず、その間に当局によって差止手続がなされなかった場合にM&A手続を完了することができます。
日本における届出制度
日本において合併をする際に、当事会社の一方の国内売上額が200億円を超え、他方の国内売上額が50億円を超える場合に事前届出が必要となります(15条2項)。届出がなされたら30日間合併手続を進めることができません(同3項)。当事会社から申出があり、独禁法上問題が無いことが明らかである場合はこの期間が短縮されます。
コメント
米国や欧州では届出からの待機期間中は合併手続だけでなく、情報交換や工場の統廃合、従業員の移転といった市場競争に影響を与える行為が軒並み禁止されます。米国で実際にあった例として、待機期間中は工場を閉鎖する取り決めとなっていたところ、その間労働問題が生じ閉鎖できなくなったという事例でもガンジャンピング規制違反として当局から提訴されております。その他にも待機期間満了前に相手方企業の議決権を実質的に移転した行為に対して適用されております。以上のように日本の独禁法にも同様の待機期間は存在しますが、ガンジャンピング行為を禁止している明文規定は存在しません。公取委が注意を喚起している点は待機期間満了までに実質的に合併を完了してしまたり、届出前に合併を終わらせてしまう行為です。昨年取り上げたキャノンと東芝メディカルの事例でも公取委は今後容認しないとしました。このようにガンジャンピング行為規制は日本では馴染みがありませんが、欧米では重要な反競争行為規制の一翼を担っております。海外企業を買収する際にはこの点にも注意し、手続完了までは情報交換等を行わないよう心がけることが重要と言えるでしょう。
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